フラットフレームの撮影と処理
撮影した写真を見ると、四隅がやや暗く写っていることが多いと思います。これは「周辺減光」といって、レンズからの光が撮像素子全体に均一に回りきらないために起こる現象です。
また、撮像素子のゴミの影が写りこんでいることもよくあります。特にIRカットフィルターを取り除いた「天文改造」カメラの場合、撮像素子をクリーニングする機能も取り除かれていることが多く、ゴミは問題になりがちです。
さらに、画像を強調処理すると、カメラによっては「スジ」のような固定のノイズパターンが現れることがあります。これはおそらく撮像素子からのデータ読み出しに関連して発生するもので、淡い対象を強調しようとしたときに大変邪魔になるものです。
これらの問題を一気に解決するのが「フラット補正」と呼ばれる操作です。フラット補正では、その光学系の光の回り方を記録した「フラットフレーム」を用意しておき、このデータで対象画像のデータを「割り算」します。
たとえば、画像の端では中央の50%の明るさになってしまう光学系があったとして、これで撮った写真をフラットフレームで割り算すると、中央は100%÷100%=1、端では50%÷50%=1となり、画像中央と端とで明るさがピッタリ揃うことになります。ゴミの影や読み出しノイズについても同様で、この処理を行うことにより背景は均一になり、以降の画像処理が格段に楽になります。
光害のひどいところで撮った写真では、周辺減光やゴミの影は非常に目立ちますし、強い強調処理により読み出しノイズも浮かび上がりがち。フラット補正はほぼ必須と言えるでしょう。
フラットフレームの作り方
さて、これに用いるフラットフレームの作り方ですが……キャップを付けて撮影すればよかったダークフレームに比べるとはるかに難しく、誰もが苦労しているところです。要は「何も写っておらず、光の分布だけが記録された写真」を撮ればいいのですが、そのための「何も写っていない均一な光源」を用意するのが非常に難しいのです。
フラットフレームを得るには様々な方法が考案されていますが、どれも一長一短で、なかなか「これ」といった方法がないのが実情です。よく行われているのは
- 望遠鏡にトレーシングペーパーや白いビニール袋をかぶせて夜明けの空を撮る「薄明フラット」
- 曇り空を撮る「曇天フラット」
- 均一に照らされた白い壁を撮る「壁フラット」
- 均一に光るEL(エレクトロルミネッセンス)パネルを撮る「ELフラット」
- ELパネルの代わりにPCの液晶ディスプレイを撮る「液晶パネルフラット」
- 対象天体の近くで、星しかない or 星が少ない領域を撮影後、画像処理で星を消去しフラットフレームとして用いる「ご近所フラット」
といったあたりですが、1~3は均一な明るさを得るのが意外と難しいですし、6は補正はほぼ完ぺきにできそうなものの、撮影にどうしても時間がかかってしまいます。質のいいフラットフレームを得るためには、やはり本撮影と同数以上のコマ数をコンポジットする必要があるのでなおさらです。
私の場合は、4のELフラットを普段行っています。ELパネルは市販のELシートとアクリル板で自作。光量を落とすためのNDフィルムを挟み込み(後述するように、数秒以上の露出を行うので)、本撮影時と同じ感度で撮影します。感度を同じにするのは、シグナル増幅や読み出しに起因すると思われるノイズを除去できるのではないかと考えてのことです。また、光学系の構成(フィルターや補正光学系の有無、スパイダーがある場合カメラに対するその角度)やピント位置も本撮影と全く同じにします。
シャッター速度は、あまり短いとELパネルの発光ムラが出るので数秒以上になるようにしています。フラットフレームの明るさは、白飛びも黒つぶれもしない程度になるようにしてください(理想的には、R, G, Bの各色について、ライトフレームと同程度の明るさ)。
撮影枚数は上記の通り、本撮影と同数以上。また、同時に「フラットフレームのダークフレーム」も忘れずに撮影しておきます。
上記の撮影が終わったら、まず「フラットフレームのダークフレーム」をコンポジット。次いで、このダークフレームを用いて「フラットフレーム」のダーク補正を行った後、フラットフレームのコンポジットを行います。コンポジットの条件は、いずれも前記のダークフレーム作成時の条件と同様です。