光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

予算から選ぶ

さて、いまさらですが望遠鏡にかけられる予算はいくらくらいでしょうか?よほどの大金持ちでもない限り、かけられる金額には限りがあります。そして、その金額によって、買える望遠鏡というのはある程度自動的に決まってしまうというのも事実です。

では、どのくらいの予算を考えておけばいいのかですが……これはもう、ピンからキリまでとしか言いようがありません。上を見始めれば、鏡筒1本、架台1つで100万円単位の金額がポンポン飛び交う恐ろしい世界です。最初のうちはあまり無理をしない方がよいでしょう。また、実際に使い始めると周辺機材もいろいろと必要になってきますので、その意味でも金額的な無理は禁物です。

とはいえ、望遠鏡は玩具ではありませんので、最低限のラインやおおよその相場というのは存在します。以下、参考までに金額ごとに代表的な機種をいくつか列挙してみます(各製品の写真は各社のウェブサイトより引用しています)。

4万円以下コース

正直なところ、この価格帯の望遠鏡は「お試し」レベル。ここに並べたのは比較的良質なものですが、低価格・小口径ゆえの性能の限界はあり、機械的な強度も決して高くないので長い間使い続けるには厳しいものがほとんどです。パーツを買い足して性能アップを図るといった発展性もほとんどありません。しかし、買い替えを前提とした「体験版」として考えるなら、こういう選択肢もアリだと思います。

オルビィス コルキット「スピカ」(実売価格 税込3498円)

星の手帖社 組立天体望遠鏡(35倍)(実売価格 税込3960円)

国立天文台望遠鏡キット(実売価格 税込5280円)

前者2つは口径40mm、最後の1つは口径50mmの組み立て式望遠鏡です。こんな小さな望遠鏡でまともに見えるものか、と思いがちですが、意外と馬鹿にしたものではありません。月面のクレーターはばっちり見えますし、小さいながらも土星の輪もしっかり分かります。いずれも低価格ながら真面目な作りで、倍率だけが売り物の「望遠鏡のおもちゃ」とは雲泥の差です。子供の夏休みの自由研究などに最適ですが、大人でも十分楽しめます。

スコープテック ラプトル50(実売価格 税込11900円)

スコープテック アトラス60(実売価格 税込32800円)など

子供や初心者向けに良質な望遠鏡を届けることを社是としている、スコープテックの入門用望遠鏡です。その名の通り、ラプトル50は口径50mm、アトラス60は口径60mmです。アトラス60の方は作りが比較的頑丈で、架台に微動装置もついているので、ある程度の高倍率での使用も可能です。三脚の長さや本体の重さなど、子供が一人でも使えることを想定しているようです(特にラプトル50)。なお、ここで挙げたのはあくまでも一例。同社の製品はどれも価格の割に丁寧な作りで、カタログスペックや見た目の印象以上によく見えることで定評があります。

ただ、いくら良質とはいっても、口径の小ささによる性能の限界はいかんともしがたく、見られる対象はどうしても限られます。うっかりすると月と土星を見たあたりで飽きてしまい、星への興味を失ってあとは物置の肥やし……ということになりかねません。上記の組立式のものならまだ「被害」は小さいですが、この手の三脚つきのものが「肥やし」になったのでは、あまりにもったいないです(収納スペース的にも)。特に、数万円の機種は「体験版」にしてはいい値段の上、アップグレードもほぼ不可能ですので、そのあたりはよく考えましょう。

サイトロン MAKSY60 学習用天体望遠鏡キット(実売価格 税込13860円)

Sky-Watcher製品などを取り扱う、サイトロンが販売する学習用天体望遠鏡キットで、口径60mm、焦点距離750mm(F12.5)のマクストフカセグレン式望遠鏡です。驚くべきはその価格で、恐ろしいほどの低価格にもかかわらず、アイピースやスマートフォンアダプターも付属していて、しかも性能はこなれた設計の反射系望遠鏡だけに十分なものがあります。

付属アイピースは基本的に1本だけ(もう1本は投影専用のアイピース)ですが、規格としては31.7mm径の一般的なものなので、倍率を変えたければ買い足すといいでしょう(ただし、あまり高倍率にするのは、操作が難しくなることもありお勧めしません)。卓上三脚はさすがに頼りないですし、自由雲台での微妙な操作は難しいですが、望遠鏡自体はカメラネジで固定されているだけなので、他のしっかりした三脚等に交換することもできます。

反射系の望遠鏡は「光軸調整が面倒」ということで初心者向けとしては敬遠されがちですが、ここまで小型軽量だと光軸がズレることはめったにありません。よほど乱暴に扱わない限り、そこは気を使わなくていいのではないかと思います。見かけこそ玩具然としていますが、想像以上にしっかりした望遠鏡です。

なお、同じシリーズに「NEWTONY」という口径50mmのニュートン式反射望遠鏡もありますが、こちらは主鏡が球面鏡のため、球面収差が残っていて見え味にやや難があるとのこと(本来は球面鏡ではなく放物面鏡を使うべきところ。なお、球面鏡でもF値が暗ければあまり大きな問題にはならないのですが、F4と明るい分、収差の出方は大きくなります)。税込価格5980円という猛烈な安さですが、積極的にはお勧めしません。

4~5万円台コース

このあたりが、長年使える望遠鏡の最低ラインになります。

ビクセン ポルタII A80Mf(実売価格 税込 53856 円)

ベテランにも使用者が多く、使い勝手に定評のある「ポルタII経緯台」とのセットで、初心者向け望遠鏡の定番と言えます。実際、価格が手ごろで信頼のできる手動経緯台という意味では、現状、ポルタIIの一択といっても過言ではありません。もし鏡筒の性能に不満が出てきても、別の鏡筒に載せ替えることが可能ですし、将来もっと上位の望遠鏡を買ったとしても「ちょい見」用として末永く使い続けることができるでしょう。

A80Mfは口径80mmのアクロマート屈折で、このくらいの口径になってくると見ることのできる対象も増え、一気に世界が広がります。太陽を含め、見る天体を選ばないので、最初のオールマイティな1本として無難な選択ではあります。

なお、ここでは架台、鏡筒とも同一メーカーで揃えましたが、望遠鏡専門店では同じような価格帯で、他社の鏡筒と組み合わせたセットなども企画しています。そうしたものも併せて比較してみるとよいでしょう。

6~10万円コース

自動導入経緯台の売れ筋ラインがこのあたりです。赤道儀も海外製の入門機であれば手が届きます。以前は、国産の赤道儀(具体的にはビクセンGP2赤道儀シリーズ)もこの価格帯で買えましたが、現在では製造中止になっていて新品での入手は不可能です。

スカイウォッチャー AZ-GTi+MAK127(実売価格 税込 94820円)

中国にある世界有数の望遠鏡メーカー、南通斯密特森光電科技有限公司(Nantong Schmidt Opto-Electrical Technology)がSky-Watcherブランドで販売している製品。自動導入経緯台と口径127mm、F11.8のマクストフカセグレンとのセットです。驚くべきはその価格で、従来の自動導入機にこのクラスの鏡筒を載せたら、10万円は軽く超えるところです。その秘密は、架台の操作をすべてスマホのアプリに任せてしまった点で、専用のコントローラが不要になった分、大幅な価格引き下げに成功しています。その一方で、架台と鏡筒の接続には一般的なビクセン規格のアリガタ・アリミゾが使われているので、他の鏡筒ヘの載せ替えも可能と、機能に不足はありません。ファームウェアをアップデートすれば簡易赤道儀としての使用も可能(ただしメーカーは積極的に推奨はしていません)で、大きな可能性を感じる機材です。

なお、類似品として、AZ-GTiマウントから手動での水平粗動機構を取り除いた「AZ-GTeマウント」というのものがあり、これと口径127mm、F11.8のマクストフカセグレンとを組み合わせた「AZ-GTe MAK127」というセットも若干安く販売されています。スマホで普通に使う限りにおいてAZ-GTiマウントとAZ-GTeマウントとに差はほとんどありませんし、鏡筒も同等品なので、その時の実際の価格や在庫の有無等で判断してしまっていいと思います。詳しくはこちらをご覧ください。

また、この組み合わせ(AZ-GTi+MAK127)は私も愛用しています(私が使っているのは鏡筒単体で販売されているMAK127SPですが、細かい仕様の違いを除けば光学系としては同一です)。鏡筒がやや重いせいで若干振動が気になりますが、十分な性能を持っていて使いやすい機材です。詳しいレビューについてはこちらこちらをご覧ください。

スカイウォッチャー EQ5赤道儀(実売価格 税込 51700円)

南通斯密特森光電科技有限公司(Nantong Schmidt Opto-Electrical Technology)がSky-Watcherブランドで販売している赤道儀です。ぶっちゃけ、以前ビクセンが販売していたベストセラー赤道儀「GP2赤道儀」のコピー品だったりするのですが、GP2が販売終了となった現在では、ある程度の信頼性がある、貴重な初心者向け赤道儀となっています。モーターはついていないので手動での操作になりますが、セッティングさえしてしまえば経緯台よりは便利に使えます。これと小口径のアクロマート屈折またはニュートン式反射、マクストフカセグレン等を組み合わせれば、およそ10万円程度に収まるはずです。

また、モータードライブや、自動導入機能を付けるためのアップグレードキットが別売されているのもうれしいところで、初期投資を押さえつつ、後から機能向上を図ることができます。

ただし、上に書いた2製品に限らず海外製の望遠鏡は大抵そうですが、日本語の説明書がついてないか、あっても貧弱な場合が多いです。使い方などで不明な点が出てきた場合、専門店で買ったのであれば、店に問い合わせればある程度教えてくれるでしょうし、最近はネットで情報を集めるのも簡単になりましたが、初心者にとっては1つ非常に大きなハードルだろうと思います。また、良くも悪くも作りがおおざっぱで実用本位。パーツにバリがあったり、噛み合わせがずれていたり、ネジが妙に渋かったり……といったことは日常茶飯事です。日本製品のような精密さはないので、テイストが合わない人はいるだろうと思います。

なお、これのもう1つ下のクラスとして、同社のEQ3赤道儀(ビクセンの「スペースボーイ赤道儀」のコピー品)やEQM-35赤道儀がありますが、これらは強度が相応に下がりますのでお勧めしません。

10~20万円コース

このあたりでようやく写真撮影にも対応できる赤道儀が視野に入ってきます。具体的には、スカイウォッチャーの「EQ5 GOTO赤道儀」(上記「EQ5赤道儀」に自動導入機能を組み込んだもの)とのセットなどが該当します。赤道儀がおおよそ10万円台なので、価格や架台の強度的に無理なく組み合わせられる鏡筒は、口径8~10cmクラスのアポクロマート屈折や、口径15cmクラスのニュートン式反射、口径10~15cmクラスのマクストフカセグレンといったあたりになるでしょうか。

架台の作りはそれなりにしっかりしていますし、自動導入機能付きなので機能面でも魅力的です。ただし海外製品ゆえ、前項で書いたのと同じく日本語サポートや品質の問題がどうしてもつきまといます。使用者は少なくないので情報は手に入れやすい方ですが、まったくの初心者の場合、ちょっと苦労するかもしれません。

なお、国産にこだわるならビクセンの「AP赤道儀」とのセットという選択肢もありますが、この赤道儀には自動導入機能も目盛環もないため、望遠鏡を目的の方向に向けるには自分の眼だけが頼り。月や惑星のように明るい天体なら話は簡単ですが、暗い天体を導入しようとすると、ファインダーを覗いて見える星と星図とを照らし合わせながら操作することになります。それなりに慣れが必要な作業ですし、特に、見える星の数が少ない街中ではかなりの困難が予想されます。積載能力もそれほど高くなく、製品の性格的には、慣れた人が撮影用のサブ機として使うのに適した架台のように感じます。

20万円以上

大体ここから上が赤道儀の主戦場になります。機能、性能ともに充実してきますし、鏡筒についても写真向きのもの、大口径のものなどさまざまな特色を持ったものが揃っています。本格的に天体観測、天体写真をやりたい場合、このくらいのクラスから選ぶことが多いです。ただし、金額面ではまさに青天井の世界ですので、方針をしっかりと決め、十分な下調べの上で無理のない選択を心掛けたいところです。

ドブソニアンについて

あえて上の項には入れなかったのですが、低価格で大口径の望遠鏡を手に入れる手段として、「ドブソニアン」と呼ばれる形式の望遠鏡を選ぶ方法があります。合板などでできた簡易的な経緯台に、金属パイプやプラスチック、紙(!)などで作られた鏡筒、大口径の反射鏡を組み合わせて作られたニュートン式反射を載せたもので、アメリカのアマチュア天文家ドブソンさんが考案したものが元になっています。数十cmもの大口径の反射望遠鏡を低価格で手に入れることができるのが最大の特長で、ベテランにもファンが多いスタイルです。

ドブソニアンの例(スカイウォッチャー DOB10S)
口径約25cmの望遠鏡ですが、架台込みでわずか税込83600円という低価格です。

安い上に大口径ということで、つい検討対象に入れたくなりますが……これが最大の魅力を発揮するのは大口径の集光力を生かして低倍率で星雲などを観測する場合。光害のある街中では性能を生かしづらいです。惑星などの観測もできなくはないですが、通常、微動装置がないため高倍率の観測にはあまり向きません。なかには自動導入・追尾機能付きのものもありますが、その場合は価格や運用の手間など、自動導入経緯台と同様の問題が発生します。

このタイプは、やはり空の暗いところで低倍率で運用するのが基本と考えた方がいいでしょう。絶対的なサイズも大きいですし、運用にあたっても観測現場で素早く光軸調整を行ったり、星図を頼りに自力で望遠鏡を目的の星雲に向けられる程度の技量は求められますので、あまり初心者向けとは言えません。

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