Sky-Watcher MAK127SPレビュー
概要
MAK127SPはSynta Technology社南通斯密特森光電科技有限公司(Nantong Schmidt Opto-Electrical Technology)がSky-Watcherブランドで販売している、口径127mm(5インチ)、焦点距離1500mmのマクストフカセグレン式望遠鏡です。他社のOEMとしても長年販売され続けてきた(例:ビクセン MC127Lなど)モデルで、隠れたベストセラーと言えます。
価格(いずれも税抜)は、等倍ファインダー、天頂ミラー、アイピース2本、望遠鏡を収納するキャリングケースがついて、定価52250円、実売価格は41800円ですが、私が購入した時はセール価格が適用されて35000円でした。
外観など
口径127mm、焦点距離1500mm(F11.8)とそれなりにスケールの大きい光学系ですが、鏡筒は直径約144mm、長さ約370mm(接眼部含む)と非常にコンパクトです。重量はファインダーやアイピースを除いて約3.3kg。軽いので持ち運びや設営も楽々です。一般にカセグレン系の望遠鏡では、重心が主鏡側に寄りがちでバランスを取るのにしばしば苦労するのですが、この鏡筒の場合、メニスカスレンズが相応に重いため、重心の偏りはあまり感じません。このあたりも扱いやすさに一役買っている感じがします。
本体はSky-Watcherの鏡筒に共通の、ラメの入った黒色できれいに塗装されていて、眺める分にはなかなかきれいです。しかし、暗いところで使う機材が黒というのは視認性が悪く、これについては個人的にはあまり感心しません。熱も吸収しやすく、レンズの厚さなどのために熱順応が特に問題になりがちなマクストフカセグレンの色としては、あまり歓迎できないかな、というのが偽らざる感想です。
ファインダー台座は、接眼部から見て鏡筒の左側にあります。このレイアウトだと、赤道儀などに載せた場合(写真左)はファインダーが上に来ますが、同社のAZ-GTiマウントのような片持ち経緯台に載せた場合(写真右)は、ファインダーが下側に来てしまうのでかなり覗きにくくなります(AZ-GTiマウントとのセットで販売されているものについては、台座の位置が右側になっていて、AZ-GTiと組み合わせた時にファインダーが上側に来ます)。とはいえ、付属の等倍ファインダーは、離れた位置から見ても赤いドットと対象物の位置を確認できるので、実用上はそれほど支障はありません。
鏡筒の下側には、アルマイト処理で緑色に着色された、ビクセン規格のアリガタが固定されています。アリガタには1/4インチのいわゆる「カメラネジ」が10mm間隔で4カ所にあけられていて、カメラ三脚への取付も可能になっています。正立プリズムと組み合わせて、スポッティングスコープとして使う場合などに便利でしょう。
マルチコートが施されたメニスカスレンズは中心部がメッキされていて、これが副鏡の役割を果たします。レンズと一体化しているため、シュミットカセグレンと違ってこちら側に光軸調整用のネジなどはありません。
光軸調整は、鏡筒の後端にある、六角レンチで回転可能な3本セット×2のネジ群で主鏡の傾きを調整することで行います(参考:米Orion社の同等品(MAK127SPのOEM)の光軸調整マニュアル → PDF)。ただ、付属のマニュアルには、光軸はめったに狂わない、万が一狂った場合はメーカーに送り返して対応する、といった内容が書かれており、基本的にはユーザー側で光軸を調整することは想定されていないようです。そもそもマクストフカセグレンの場合、光学エレメントは全て球面の上、F値も暗くて光軸の狂いには鈍感にできていますから、いずれにしても光軸調整の必要性はほとんどなさそうに思います。
なお、反射系の望遠鏡の場合、副鏡が光の一部を遮るため、これが光の回折を引き起こして像のコントラストに悪影響を及ぼすことが知られています。光を遮るもののの直径と望遠鏡の口径の比を「中央遮蔽率」といい、惑星等の淡い模様をコントラスト良く観測するためには、最低でもこれが30%前後に収まっていることが望ましいといわれています。MAK127SPの場合、メッキ部分の直径は40mm前後で、おおむね30%程度に収まっているように思われます。
しかし、上の写真でも見られるように、副鏡の周囲には迷光防止のためにラッパ状のバッフルが設けられているため、実際のこの数字はもう少し大きくなります。
試しにアイピースを取り外し、接眼部にカメラを押し当てて主鏡のシルエットを撮ってみると、副鏡の影はかなり大きく写ります。測ってみると、実質的な中央遮蔽率は40%近くありそうです。ここまで遮蔽率が大きいとコントラストに悪影響が出るのは避けられないかもしれません。
接眼部には31.7mm対応のアイピースアダプターが取り付けられています。鏡筒本体とアダプターとは、M45.6 P1.0のネジを利用したスピゴット式での接続となっています。シュミカセで一般に使われる2インチネジでの接続ではないので注意が必要です。また、開口部が2インチ以下という点でも分かるとおり、アダプター等で2インチアイピースを取り付けられたとしても、おそらくケラレてしまってフルな視界は得られないでしょう。とはいえ、元々が広視界を期待する鏡筒でもないので、実用上は問題ないはずです。
また、上記アイピースアダプターの末端にはM42 P0.75のネジが切られていて、一般的なTリングを介してカメラの取付が可能です。
ピントの調節は、カセグレン系で一般的な主鏡移動方式です。この方式は接眼部の強度が確保できる一方、主鏡が前後に移動するのに伴って上下左右にふらつき、視野内の星がずれてしまう「ミラーシフト」と呼ばれる現象がつきものです。この鏡筒でもミラーシフトは見られますが、その大きさは比較的小さいように思われます。
ピント調節ノブには微動装置の類はついておらず、精密なピント合わせはそれなりに困難です。贅沢を言えば微動装置が欲しいところですが、そもそもが写真用の鏡筒でないこと、また微動装置を付けると価格がほぼ2倍になってしまうだろうことを考えると、やむを得ない選択でしょう。
付属品について
同梱されているパーツは、等倍ファインダーと天頂ミラー、「SUPER25」および「SUPER10」とシールが張られたアイピース2本、そしてプラスドライバーとキャリングケースです。パーツは、光学エレメントを除きすべてプラスチック製となっていますが、価格を考えれば仕方のないところでしょう。
アイピースは、それぞれ焦点距離25mmと10mmで、MAK127SPに取り付けた時の倍率はそれぞれ60倍、150倍となります。欲を言えば、低倍率側はもう少し低い方が視野が確保されやすくて望ましいのですが、視野を広くしようとするとレンズも大きくなりがちなので、バランス的にはやむを得ないところでしょうか。
レンズは、表面の反射を見る限りモノコートのようです(左:SUPER25, 右:SUPER10)。レンズ構成については、色々調べてみるとSUPER10の方はどうやらケーニッヒ式のようです。SUPER25の方はよく分かりませんが、おそらくはケルナー式でしょうか?(2020/08/20追記:読者の方から「ケルナー式」との情報をいただきました) 内面のつや消しはお世辞にも優秀とは言えませんが、このあたりも価格相応かと思います。
キャリングケースの方はクッションもしっかりしていますし、ポケットも多くて実用性は高そうです。等倍ファインダーを取り付けた状態では鏡筒を収納できないのが惜しいところですが、トータルの価格を考えれば驚異的です。
この他、入っていたのは英文マニュアルと、それを和訳したもの。英文は両面印刷のレター判1枚、和訳もA4サイズ3ページのきわめて簡素なもので、もし全くの初心者がこれを手にした場合、正しく使えるかどうか若干の不安が残ります。このあたりは、さすがにビクセンなどに一日の長がある感じです。
観望の1時間以上前に、鏡筒を屋外に出して外気温に十分順応させた後、惑星や月を観望してみました。なお、普段あまり眼視観望をしない筆者の印象なので、あくまでも参考程度とお考え下さい。 まず肝心の見え味についてですが、期待以上によく見えます。木星の縞や大赤斑、土星本体の縞やカッシーニの空隙などもしっかりと確認できて、10cmオーバーという口径なりの見え味といった感じです。満月近い月を見ても、迷光の影響はほとんど感じません。ただ、実質的な中央遮蔽の大きさから予想されるとおり、コントラストはやや低めな印象です。惑星の模様も屈折鏡筒のような明快さはなく、見つめているとじわじわと見えてくる感じの、反射系鏡筒特有の見え方です。 付属していたSUPER25およびSUPER10なる怪しげなアイピースも、意外や意外、普通にちゃんとよく見えます。プラスチック製の外装で、モノのグレードとしては完全に玩具レベルなのですが、ここまで見えてしまうと正直ちょっと複雑です。とはいえ、アイピースを手持ちのNLVシリーズのものと交換すると、惑星の模様のコントラストが明らかに一段上がるのも事実で、価格相応ともいえます。それでも、付属品としては一定の品質を持っていると言っていいでしょう。 一方、焦点距離が長いこともあって、AZ-GTiマウントとの組み合わせだと、ピント調節ノブに触れるだけでかなり揺れ、ピント合わせはなかなか困難です。カウンターウェイトを取り付ければ多少マシになりますが、過剰な期待は禁物です。なるべく頑丈な架台で運用したいところです。実使用時の印象
写真性能
そもそもF値が11.8と非常に暗く、決して写真用の鏡筒ではありませんが、一応、写真性能についても確認しておきます。
まず収差の出方についてですが、APS-Cの端の方で星がわずかに内側に向かって尾を引くものの、かなり優秀な結果です。周辺減光も、F値の暗さもあってかほとんど目立ちません。フラット補正はほぼ不要と考えていいかもしれません。
F値が暗い上に焦点距離が1500mmと長く、その上、シュミットカセグレン用に販売されているオフアキシスガイダーの類もそのままでは取り付けられないなど、ガイド撮影を行おうとすると多大な困難が予想されますが、ガイドが不要な月、惑星や、表面輝度の高い惑星状星雲相手なら、それなりに楽しめるかと思います。
まとめ
口径10cm以上の望遠鏡が実売価格で4万円台、セールのタイミングを捉えれば3万円台という圧倒的なコストパフォーマンスが最大の魅力でしょう。アクセサリーを除けば、鏡筒本体は2万円台にも届こうかという低価格ですが、こなれた設計のために安定した性能を発揮することが期待でき、光軸調整もほぼ不要。月、惑星の観望を主目的とするなら初心者にもお勧めできます。Tリングさえ用意すれば即座に写真撮影に使えるというのも非常に便利です。
ただし、焦点距離が非常に長くて視野も狭いため、天体の導入やピント合わせ、写真撮影にはそれなりの難しさを伴います。初心者が口径の大きさだけにつられて購入すると、意外と苦労するかもしれません。ある程度の経験があれば運用で十分カバーできる範囲内ですが、できれば頑丈な架台と組み合わせて使いたいところです。
また、海外製品の常ですが、マニュアルが簡素すぎるので、せめて日本語版だけでも内容をもう少し充実させてほしいものです。