光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

トミーテック BORG55FL+レデューサー7880セットレビュー

概要

「BORG55FL+レデューサー7880セット」は口径55mmのフローライトアポクロマート屈折「ミニボーグ55FL対物レンズ」と35mm判対応55FL専用レデューサー「レデューサー0.8×DGQ55」を組み合わせた製品で、2015年12月に発売となったモデルです。焦点距離200mm、F3.6という、天体望遠鏡としては他に類を見ないスペックで、大きく淡く広がった天体を捉えるのに向きます。購入価格は2017年6月の時点で税込128000円。口径55mmの望遠鏡と考えると高価ですが、同じようなスペックのカメラレンズや、明るさが同程度の他社鏡筒と比較すると、むしろ安いくらいです。

外観など

このセットは複数のパーツが最初から組になって販売されているセット商品です。内容は以下の通り。それぞれをバラバラに買うよりは割安な価格設定になっています。

  • ミニボーグ55FL対物レンズ【2555】
  • M57ヘリコイドDXII【7761】
  • M57/60延長筒L【7604】
  • レデューサー0.8×DGQ【7880】
  • カメラマウントホルダーM【7000】

これを見て分かるとおり、このセット自体は写真撮影での利用が前提となっていて、そのままでは眼視に対応しません。普通の天体望遠鏡として使う場合には、別途接眼部などを揃える必要があります。また、カメラマウントは別売です。

セット全体の重量は637gで、ポータブル赤道儀での運用も可能な範囲ですが、本体が小さいだけにズッシリとした印象があり、手に持つと数字以上に重さを感じます。

さて、まずはメインとなる「ミニボーグ55FL対物レンズ」ですが、光学スペックは、口径55mm、焦点距離250mm(F4.5)となっています。

フードの先端には58mmのフィルターネジがついていて、カメラ用の様々なフィルターを取り付けることができるようになっています。また、フード内側には迷光防止のために多数の溝が切られています。

しっかりマルチコートが施された対物レンズの構成は2群2枚で、そのうちの1枚はフローライト(蛍石)の凸レンズとなっています。フローライトは、屈折望遠鏡につきものの色収差を抑えるのに大変有効な光学材料で、この望遠鏡のカギとなる部品の1つです。ただし、大変高価なのが欠点で、この望遠鏡の価格が高くなる一因ともなっています。

なお、フローライトは柔らかく傷つきやすい材料なので、かつては直接外部と接触する心配のない後ろ側に配置することがしばしばありました。しかし現在ではレンズコーティングの技術が大きく向上したこともあり、フローライトを前側のレンズとして使用する例も出てきています。

前者の凸レンズを後ろ側に配置する設計を「スタインハイル型」、後者の凸レンズを前側に配置する設計を「フラウンホーフェル型」と呼びますが、実は後者の設計の方が精度が出しやすく、材料が節約できて製造も容易なので、工業製品としては望ましいのです。高橋製作所のFS-60CBは後者のタイプで、この55FLも同様の設計です(ちなみに高橋製作所のFC-100Dなどは前者です)。

とはいえ、フローライトが弱い材料であることには変わりありません。マルチコートを施してあるため通常の使用ではキズなどの心配はないとメーカーも言っていますが、レンズをクロスでゴシゴシ拭いたりするのをはじめ、手荒な扱いは避けた方が無難でしょう。

セットのもう1つの要、「レデューサー0.8×DGQ」はマルチコートの施された3群4枚のレンズからなるユニットです。35mm判に対応するためにレンズ径は大きく、これだけで約260gの重量があります。太さも48mmあり、セットになっているM57ヘリコイドDXIIの内径(49mm)ギリギリです。

このレデューサーの先端と後端には48mmフィルターネジが設けられています。元々はどちらのフィルターネジも使用可能な設計だったのですが、途中でM57ヘリコイドDXIIの仕様に変更があって内径が小さくなったため、前方にフィルターを取り付けると干渉してしまうようになりました。現在は、レデューサー側にフィルターをつけたい場合は後端のネジを利用するしかありません。

このセットはF3.6という明るさのため、合焦範囲が狭く、ピント合わせがかなりシビアになっています。そのため、ピッチが細かくて微妙なピント合わせが容易な「M57ヘリコイドDXII」が組み合わされています。刻まれている目盛り1つ分の移動量は100μmで、動きは従来品の1/2~1/5という細かさです。もっとも、この鏡筒に求められる合焦精度をF値から計算してみると、わずか±20μmくらいのオーダーなので、実はこれでもまだ粗いくらい(計算についてはブログのこちらの記事を参照してください)。きっちりピントを追い込むには相当繊細な操作が求められます。

セットを組み上げた姿は非常にコンパクトですが、その分、鏡筒バンドを留められる場所が非常に限られます。具体的には、対物レンズのフード直下と延長筒のあたりしかありません。架台への鏡筒の取り付け方はよく考える必要があります。レンズ枚数の多いレデューサーのために鏡筒の重心が中央付近にあり、前後バランスが合わせやすいのがまだ救いでしょうか。

上の写真のようにフード直下と延長筒の2ヵ所で留めると見るからに安定しますが、ヘリコイドに備わっているピント位置固定用のネジがアリガタなどと干渉しがちです(上の写真のケースでは、たまたまネジ穴が側面に来ているため干渉していませんが、カメラを縦位置にすればアリガタとネジがぶつかります)。この場合はネジを取り去ってしまい、ピント位置固定は鏡筒バンドでの固定に頼る形にするといいでしょう。

上の写真のように鏡筒バンド1本で固定するような場合には、ヘリコイドの固定ネジを生かせます。

性能

口径55mmのコンパクトな望遠鏡ですが、フローライトレンズと高性能なレデューサーのおかげかハイレベルな星像です。

55FL+レデューサー0.8×DGQ55の星像(左:中央, 右:右上隅, EOS KissX5使用)

少なくとも、APS-Cの範囲内では周辺部までほぼ点像を保ちます(等倍で見ると、隅の星像はわずかに中心方向へ尾を引きます。)。ただ、上でも書いた通り、合焦範囲は非常に狭く、正確なピントを出すのは楽ではありません。ライブビューを目視したくらいではまず不可能。できればバーティノフマスクなどを使い、ソフトウェアで判定を行いたいところです。スケアリングの狂い(光軸とセンサーとの傾き)にも非常に敏感で、隅々まで完璧な星像を目指そうとすると一筋縄ではいきません。ドローチューブや回転装置などの可動パーツは極力少なくした方が良いでしょう。

また、なまじ星像がシャープで小さい分、ライブビューを一見しただけでは星の確認がしづらいのも痛し痒しといったところ。上記のピントの件なども考えると、この鏡筒の場合、試し撮りをしながらピントや構図を追い込んでいくのがいいのかもしれません。

55FL+レデューサー0.8×DGQ55の周辺減光(EOS KissX5使用)

周辺減光は鏡筒が明るいだけに、普通の望遠鏡での直焦点撮影と比べるとそれなりの大きさですが、F3.6という明るさを考えると小さいとも言えます。光量の分布は非常に素直で、補正はやりやすいだろうと思います。カメラ側のミラーボックスによるケラレがほとんど見られないのも見事で、きれいに光が回っています。

なお、今回は試していませんが、55FL自体は同社のレデューサー0.85×DG【7885】やマルチフラットナー1.08×DG【7108】などの一般的な補正レンズにも対応しています。

まとめ

このセットは社長がかなりの思い入れをもって開発に携わったというだけに、確かに非常に力の入った製品であるという印象を受けます。小さいながらも凝縮感のある本体、星像のシャープさや周辺減光の素直さなど、あちこちに素性の良さをうかがわせます。鏡筒の固定のしにくさ、ピント合わせのシビアさなど使いづらさを感じる部分もありますが、多くは鏡筒の性格や性能とトレードオフの部分であり、納得のできる範囲のものです。

いずれにせよ、200mm、F3.6という仕様は、天体望遠鏡として他に例を見ないものです。35mmフルサイズなら広大な写野を手に入れられますし、画角が狭くなりがちなAPS-C以下のカメラにとっても貴重な存在です。直接の対抗馬はおそらく各社のカメラレンズということになりますが、絞りがないゆえのきれいな星像や、周辺減光の素直さなども考え合わせると、星を撮ることに限ればやはり天体望遠鏡であるこちらに一日の長があるのではないでしょうか。

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