光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

Sky-Watcher AZ-GTiマウントレビュー

概要

AZ-GTiマウントはSynta Technology社南通斯密特森光電科技有限公司(Nantong Schmidt Opto-Electrical Technology)がSky-Watcherブランドで販売している自動導入経緯台です。制御をスマホアプリで行うようにしたことでハンドコントローラを不要とし、自動導入経緯台として前代未聞の低価格を実現したのが特徴です。簡単なセッティング作業さえしてしまえば、目標天体の導入や追尾も簡単で、初心者にも使いやすい機材に仕上がっています。

現在、この経緯台はマウント単体の他、三脚とのセット、口径90mmまたは127mmのマクストフカセグレン鏡筒とのセットの形で販売されていますが、私が購入したのは三脚とのセットです。価格(いずれも税抜)は定価43500円、実売価格34800円ですが、私が購入した時はセール価格が適用されて、10%引きの31320円でした。

Sky-Watcherについて

この経緯台を販売しているSky-Watcherというブランドですが、最近でこそよく見かけるものの、比較的なじみが薄いかと思います。そこで、初めにその沿革や概要を簡単にお話ししておこうと思います。

Sky-Watcherブランドを使用しはじめたのは、台湾発の光学機器メーカーSynta Technologyです。同社は1980年頃、Dazhong Shen(David Shen)によって台湾・桃園に設立されました。1988年には、中国本土に製造子会社であるSynta Optical Technologyを設立し、日本を含め、TASCOやセレストロンなど、各国望遠鏡メーカーの製品のOEM生産を主に行っていたようです。このOEM事業は時とともに大きく成長し、いつの間にかビクセンやセレストロン、ミードを抜いて望遠鏡業界のシェア世界第1位を達成するようになりました。現行製品では、ビクセンのED80SfやR130Sf、ケンコーのスカイエクスプローラーシリーズ、米オライオン社の鏡筒や赤道儀などがSynta TechnoogyのOEM品です。さらに2005年には営業不振に陥っていたセレストロンを買収し、名実ともに世界第1位の座を確かなものにしました。ちなみに、セレストロンは元々同社に製造を委託していた立場で、小が大を飲み込んだ形です。

このSynta Technologyが、海外で直接自社製品を販売するために立ち上げたブランドがSky-Watcherです。1999年、カナダのブリティッシュコロンビア州リッチモンドに本社を設立し、カナダおよびヨーロッパで販売を開始。2000年にはアメリカでも販売を始めます。日本で販売が始まったのは2011年とだいぶ遅くなりましたが、その抜群のコストパフォーマンスにより、わずか数年で一定の地位を築き上げることに成功しました。

その後、Sky-Watcherを含むSynta Technologyの光学機器部門は南通斯密特森光電科技有限公司(Nantong Schmidt Opto-Electrical Technology)に移管され、現在に至ります。

そんな同社が自信をもって市場に出してきた自動導入経緯台がこのAZ-GTiマウントです。

外観など

水平回転軸(方位軸)からずれた位置に垂直回転軸(高度軸)があり、そこに機材が横付けされる、いわゆる「サイドマウント」と呼ばれる構造の経緯台です。この構造は「K型経緯台」に代表される伝統的な「トップマウント」と異なり、仰角を上げてもバランスが崩れないこと、また全体をコンパクトにまとめることができるのが大きな特徴です。一方、この構造では各軸にかかる力が非対称になってしまうため、カウンターウェイトを機材の反対側につけてバランスをとるのが本来の姿です。AZ-GTiの場合、純正品としてカウンターウェイトは用意されていませんが、搭載可能重量が5kgと軽いため、そうした対処は必要ないという判断でしょう。

本体は白い部分が金属、黒い部分がプラスチックです。スマートフォンなどと無線LANで接続する関係上、電波を通すために総金属製というわけにはいかないのでしょう。強度が必要な部分は金属製になっていますし、高級感はありませんが決して安っぽい感じもしません。

この架台はスマートフォンなどから操作するタイプのため、微動ハンドルの類はなく、外観は非常にすっきりしています。回転軸と動力源とを接続するクラッチは、水平軸側(写真上)は普通の手回しネジで、おそらくこれで回転機構を側面から押さえつける形。高度軸側(写真下)はダイヤルのような形状で、側面から回転ディスクを押さえつける仕組みかと思われます。後者はしっかり締め付けることができるよう、ダイヤルに指掛かりが設けられていて非常に扱いやすくなっています。

なお、この架台はアライメント作業(後述)を行った上で、スマホ等からの遠隔操作で運用するのが前提ですが、各軸には回転を検出するエンコーダが内蔵されているため、クラッチを緩めて手動で各軸を動かしたとしてもアライメント結果は保持されます。この価格帯でエンコーダを搭載しているというのはまさに驚異的で、さっと使いたい場合には重宝する機能かもしれません。

底面には、架台を三脚に取り付けるための3/8インチのネジ穴が開いています。カメラ三脚で言うところのいわゆる「太ネジ」なので、海外製の三脚を中心に、多くの三脚にそのまま載せることができます。国産の三脚の場合、多くは1/4インチのネジなので、取り付けるには変換アダプターが必要です。

上部には、小さな水準器がついています。かなり小さくて見づらいのがイマイチ惜しいところですが、この経緯台の場合、架台の水平をきっちりとることが導入精度に直結しているので、標準でこうしたものがついているのはありがたいです。

機材の取り付けは、ビクセン互換のアリガタ・アリミゾ方式です。ただ、同社のアリミゾにしばしば見られるのですが、固定ネジの反対側がただの「面」になっています。

本来のアリミゾは、上の写真のように固定ネジの反対側が切り欠きになっており、固定ネジ&反対面のアリミゾ両端の「3点支持」(上写真ピンクの三角形)でアリガタをしっかり固定します。ところが、AZ-GTiのこの構造だと、固定ネジと反対側の面との「2点支持」になってしまうのです。たいして重量のあるものを載せるわけではないはずなので大丈夫だとは思いますが、一応、注意が必要です。

インターフェイス部分にはハンドコントローラポート、電源ポート、カメラコントロールポート(SNAP)、本体の電源スイッチが並んでいます。ハンドコントローラは別売ですが、上記の通りスマホやタブレットからの操作が可能なので、実用上の不便はほぼありません。カメラコントロールポートは、ここにレリーズケーブルを接続することでシャッターを架台側からコントロールするためのものです。

AZ-GTiには最初からキヤノンの一部機種やペンタックスの一眼レフに対応したケーブルが付属しています。それ以外の機種は別途ケーブルを用意する必要があります。

電源は外部からのDC12V以外に、本体に単3電池8本をセットすることでも使用が可能です。電池ボックスと本体とはケーブルでつながれていますが、ケーブルの細さもあって、ここの構造はお世辞にも頑丈そうとは言えません。電池ボックスを入れる向きは、端子が向かって左上奥に来るのが正解ですが、無理をすれば電池ボックスを逆向きに入れることもできてしまいます。こうすると電池ボックスの取出しが難しくなるだけでなく、断線の危険も高まります。要注意です。

次に三脚。重量は1.8kgと軽く、脚はアルミニウム製の2段。ねじれ方向の力にやや弱いですが、重量の割に意外としっかりした印象です。三脚は単体でも税抜7000円で入手可能ですが、とてもそうは思えない品質です。高さは64cm~112cmの間で調節可能。

ステーに付属のプラスチック製トレーを取り付けると、脚の位置関係が固定されてより丈夫になります。トレーは、ステー中央の突起とトレーの切込みを合わせたうえで、60度回転させてステー側の爪にかみ合わせて固定します。ただ、新品だからなのかこの固定がかなり固く、付け外しにはそれなりの力が必要です。トレー、ステーともにプラスチック製ですし、ここだけは耐久性的にちょっと不安です。

三脚の脚の付け根にも水準器が取り付けられています。位置的には、架台の水準器よりこちらの方が覗きやすいかもしれません。

そしてエクステンションピラー。三脚と架台の間にこれを挟むことで、鏡筒と三脚とが衝突することを防ぎます。この構造なら天頂付近も死角になりません。アルミニウム製で、取付ボルトは上下ともに3/8インチネジになっています。これも単体で税抜3000円という驚きの安さですが、チャチな感じは全くしません。

ピラーの上端は側面のネジ3本で固定されていて、これを緩めてはずすと架台と接続するためのボルトが現れます。この状態で架台とピラー上端とを接続したのち、ピラーに戻せばシステムが出来上がります。

すべてを組み上げた姿は、全体としてもなかなかしっかりしています。3万円台でこれなのですから、本当に恐れ入ります。

制御ソフトについて

前述の通り、このAZ-GTiマウントはスマホやタブレットからの制御が基本になります。Sky-Watcherの架台制御アプリは「SynScan」「SynScan Pro」(どちらも無料)の2種類がリリースされていて、AZ-GTiマウントではどちらも利用可能です。

なお、説明書を見ると、AZ-GTiマウントの制御用としては「SynScan」の利用が推奨されています。というのも、「SynScan Pro」にはAZ-GTiマウントでは使用しない(使用できない)項目が含まれるためで、混乱を防ぐ意味で「SynScan」を使うことになっているのだと思われます。しかし一方で、「SynScan Pro」には「SynScan」にはない便利な機能もあるため、個人的には、ある程度望遠鏡を扱った経験があるのなら「SynScan Pro」での制御をお勧めします。

SynScan(左)とSynScan Pro(右)
SynScanとSynScan Proの起動画面です。この時点ですでにSynScan Proの方が設定項目が多いのが分かります。

「SynScan」と「SynScan pro」との間で、実用面での最大の違いは、用意されているアライメント方法の数です。

自動導入架台は、使用前に「アライメント」という操作が必要になります。これは架台がどういう位置、方向で設置されているかを認識させるための操作で、既知の星を望遠鏡の視野内に導くことで行います。「SynScan Pro」には

  1. 1スターアライメント
  2. ブライトスターアライメント
  3. 2スターアライメント
  4. 3スターアライメント

の4種類が揃っています。しかし「SynScan」で使えるのはbとcだけです。

aは、リスト中から選んだ1つの星を手掛かりにアライメントを行う方法です。まず、リストから星を選ぶと、星があると思われる方向に架台が動作します。この段階では望遠鏡の視野内に目的の星が入っていないと思うので、手動で架台を動かし、目的の星を視野中央に導入します。cとdは同様の操作を2つまたは3つの星に対して行うもので、a→c→dの順に導入精度は向上します。

bはcと似ていますが、初期状態である「鏡筒の北向き水平設置」が必要ない代わりに、アライメントに用いる星を手動で導入していく必要があります(cやdでは基準星の方向に自動的に架台が動きます)。姿勢を選ばないという点で、最初の設置こそ簡単ですが、アライメント時に正しい星を導入しなければならず、必ずしも使いやすいとは限りません。

これらの中では、精度に問題はあるもののaが最も手早く済みます。観望に手軽に使えるAZ-GTiマウントの利点を考えると、「SynScan Pro」においてaを使える利点は大きいと思います。

また、太陽観測の可否も「SynScan」と「SynScan pro」との大きな違いの1つです。「SynScan」では初心者が不用意に望遠鏡を太陽に向けないよう、観測対象リストにそもそも太陽が出てきません。

しかし「SynScan Pro」の場合、ホームメニューから「アドバンスド」→「アドバンスド」→「太陽観測」で太陽の観測を可能にすることができます。この機能をオンにすると観測対象リストに太陽が現れるので、太陽自体を対象にした1スターアライメントや自動導入、追尾が可能になります。

さらに、「SynScan pro」では「赤道儀モード」での使用が可能になります。AZ-GTiマウントのファームウェアを「AZGTi Mount, Right Arm, AZ/EQ Dual Mode, Version 3.20」以降にアップデートした上での話になりますが、軸の1つを天の極方向に向け、「Synscan pro」から制御することで簡易赤道儀として使えるのです。精度はさして高くなく積載重量も控えめ、さらに、ちゃんと使うには何らかの形でバランスウェイトの取付が必要、と色々注意点がありますが、簡易赤道儀として使えるとなれば応用範囲は大きく広がります。

赤道儀化AZ-GTiの例
下から順にエクステンションピラー→Manfrotto 3/8"~1/4"ネジ変換用アダプタ→低重心ガイドマウント→スカイパトロール付属V金具→1/4"~3/8"変換アダプタ→AZ-GTiマウントと接続しています。ウェイトシャフトはアイベル取り扱いのものを用い、ここにビクセンの「ウェイト軸カメラ雲台」、安い自由雲台、PoleMaster用アダプタ(UNC 1/4インチ)を組み合わせて、PoleMasterを取り付けられるようにしてあります。強度も精度も決して高くないので、無理は禁物です。

実使用時の印象

まずは試しに、ミニボーグ60EDを載せてみました。システム全体に対して鏡筒が小さすぎるように感じられるくらいで、安定感は十二分です。システム高さは三脚の脚を縮めた状態で約100cm、伸ばした状態で約150cmほど。これだけ高さがあれば、天頂付近もあまり無理なく覗けます。

夜間、これを持ち出して月や惑星を観望してみましたが、「1スターアライメント」でアライメントを取っただけでも導入精度はかなり高く、また追尾状況も良好で、高倍率での観望にも十分に耐えます。また、WiFi経由で操作するため、ピント合わせ以外は鏡筒などに触る必要がなく、安価な手動経緯台でしばしば問題となる振動とも無縁です。

注意する点があるとすれば設置方法で、使い始めの段階では「鏡筒は北向き、水平に」、「南側から見た時、鏡筒はマウントの左側」という設置方法をしっかり守る必要があります(「AZGTi Mount, Right Arm, AZ/EQ Dual Mode, Version 3.20」以降のファームウェア適用時を除く)。特に、鏡筒の初期姿勢については導入精度に直結するので、方位磁石や北極星、水準器を用いてなるべく丁寧に合わせるのがコツです。

なお、制御に用いるスマホやタブレットについてですが、「SynScan」や「SynScan Pro」の動作要件を見ると「Android 4.0以上」となっており、かなり古い機種でも使えそうです。しかし、実際にAndroid 4.4.2を搭載したASUSのMeMO Pad 8(ME581C)を制御に用いたところ、GPSで現在位置を取得できない、架台の反応に妙なタイムラグが発生するなど、不審な挙動がいくつか見られました。Googleストアから同アプリをダウンロードする際、「このアプリはお使いのデバイス用に最適化されません」という表示が出ていたことを考えると、あまり古い機種だと問題が発生するかもしれません。手持ちの機種だと、Android 5.1.1を搭載した京セラのQua phone(KYV37)では問題が出なかったので、Android 5以降だと安心なように思います。

一方、このマウントの難点はまさにこうした点で、なまじ汎用品を用いた無線接続なだけに、ひとたびトラブルが起こると何が原因なのか切り分けるのが非常に難しくなります。このあたりのトラブルシューティングは添付の説明書には全く記載がなく、アプリの「SynScan」や「SynScan Pro」に至っては、簡易なヘルプのみでまとまったマニュアルすらありません。説明書類を最小限に抑えてコストダウンし、「分からなければネットで調べろ」という姿勢はいかにも海外製品ですが、まったくの初心者は結構困りそうな気がします。

まとめ

自動導入架台といえば、一昔前は経緯台でも10万円近くの出費を覚悟しなければならないものでしたが、制御系をスマホアプリに丸投げすることで凄まじいまでの低価格化を実現したこの架台の登場は、まさにエポックメイキングと言えるものです。低価格だからといって使い勝手や性能はおざなりになっておらず、さらに、アプリやファームウェアの更新によってさらなる機能向上も見込めます。ハードウェアの面でも、この価格にもかかわらずエンコーダを搭載しているなど手抜きは見られません。赤道儀化も可能で、マニアにとっても非常に魅力的な製品に仕上がっていると思います。

価格や使い勝手の面で、初心者にはこれまで自動導入経緯台はあまりお勧めしてこなかったのですが、この製品の価格と性能、簡便さを考えると、現時点では初心者にも真っ先にお勧めできる機種だと言えるでしょう。ただし、説明書周りはビクセンあたりの製品と比べると圧倒的に弱いので、その点だけは注意が必要です。

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