光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

セレストロン EdgeHD800レビュー

概要

EdgeHDはシュミットカセグレンを改良したフォトビジュアル望遠鏡で、2010年に発売された比較的新しいシリーズです。シュミットカセグレンは大口径を手軽に扱えるということで人気の光学系ですが、コマ収差や像面湾曲が残っていて良像範囲が狭いという欠点がありました。EdgeHD光学系では接眼部のバッフル内にフィールドフラットナーを組み込むなどすることで、良像範囲を大幅に広げることに成功したとしています。

EdgeHD800は口径20cmともっとも小型のモデルで、私が購入したときの価格はPL40mmアイピース、ビジュアルバック、天頂プリズム、9×50ファインダースコープ、ドブテイルバーCG5用(ビクセン規格)込みで158000円のところ、セール価格で128000円(税込)でした。現在は消費増税や円安の影響、さらに代理店がサイトロンからビクセンに変更されたこともあり、実売価格は税込で23~24万円前後と倍近くにまで上がってしまっています。

外観など

鏡筒はわずかに緑がかった、つやのあるパールホワイトできれいに塗装されています。黒いセル、セレストロンのコーポレートカラーであるオレンジにアルマイト処理されたドブテイルバー(アリガタ)との組み合わせは特徴的で、なかなか美しい仕上げだと思います。 EdgeHD光学系はシュミットカセグレンの仲間なので、同社の口径20cmシュミットカセグレンC8同様、口径や焦点距離の割に非常にコンパクト。鏡筒長はC8と同じ432mmに抑えられています。重量は6.35kgとややありますが、それでも口径20cmクラスの鏡筒と考えれば軽量です。ただ、重心が主鏡側に大きく偏っているため、持ち上げるときは少し注意が必要。それでもEdgeHDの鏡筒には主鏡セルの直下に大きなハンドルがついているので、比較的安定して持ち運ぶことができます。

筒先には球面収差を補正するためのシュミット補正板と副鏡があります。補正板は透過率の高い”Water white glass”で作られ、さらに”StarBright XLT coating”が施されているとのこと。実際、補正板表面の反射は非常に少ないように感じました。

副鏡はセルの直径が69mmあり、遮蔽率は直径で34%、面積で11%となります。反射系の望遠鏡の場合、副鏡による回折が像のコントラストや分解能を悪化させますが、遮蔽率34%というのはそれほど顕著な悪影響が出ない範囲です。

なお、最近のセレストロンのシュミットカセグレン系望遠鏡の多くは、副鏡を取り外してここに補正レンズとカメラを接続できるようにする”Fastar”という仕組みをサポートしています。シュミットカセグレンの主鏡のF値は2と非常に明るいので、こうすることでハイスピードアストロカメラとして使用できるのです。EdgeHD800もFastarに対応していて、副鏡を簡単に取り外すことができます。取り付け、取り外しを繰り返しても光軸の再現性は比較的良いようです。ただこの鏡筒の場合、相対的に口径が小さいので、実際にハイスピードカメラとして利用しようとするとカメラ本体による遮蔽が問題になりがちです。もし利用するとすればデジカメではなく、円筒形で小型の冷却CCDを用いることになるでしょう。

筒先はわずかに絞られたような形状になっています(筒先の黒い部分が、途中から傾きが変わっているのが分かるでしょうか?)。スリムな印象を与え、格好いいのですが、この形のために筒先からかぶせるタイプのフードを取り付けた場合、滑ってやや外れやすい印象があります(「巻きつけ型」の純正品はうまくできているのかもしれませんが未検証)。というか、シュミットカセグレン系では迷光および結露対策としてフードは必須なので、いい加減メーカーもちゃんとしたフードの標準添付をしてもいいのではないでしょうか。

鏡筒内部のつや消しはされていますが、ED103Sと比べると少し明るい感じがします。迷光が入るとコントラストが低下しやすい光学系なので、ここはもう少し頑張ってほしい気がします。

リアセルの側面には換気のためのチューブベントがあります。元々、シュミットカセグレンは筒先が補正板でふさがれているために温度順応に時間がかかり、筒内気流が収まりにくいという弱点がありました。それでもシュミットカセグレンの場合、接眼部は鏡筒内に通じているため、ここを通じての換気がある程度期待できます。しかしEdgeHD光学系の場合、接眼部のバッフル内に補正レンズがあるため、完全な密閉鏡筒となってしまっています。そこで温度順応を少しでも促進すべく、このような構造が導入されたものと思われます。チューブベントには60μmメッシュのフィルターが装着されていて、鏡筒内にホコリが侵入しないようになっています。ただ、そもそもベントの大きさが小さい上にフィルターまでついているので、換気の効率は決してよくはなさそうです。

ピントの調節は、カセグレン系で一般的な主鏡移動方式です。この方式は接眼部の強度が確保できる一方、主鏡が移動に伴ってふらつき、視野内の星がずれてしまう「ミラーシフト」と呼ばれる現象がつきものでした。しかしEdgeHDではミラーを3点で支持することで主鏡のふらつきを抑えています。実際、ミラーシフトはほとんどなく、十分な効果を発揮しているようです。

さらに、リアセルの後ろに突きだしている2つのノブ(ミラークラッチ)を締めると主鏡の位置がロックされ、鏡筒の姿勢が変わっても主鏡の位置が重力でずれるようなことがなくなります。これまでは「富田式ミラーロック」など、ユーザー側で工夫しなければならなかった部分ですが、メーカーがそこに対策をしてくれたというのはうれしいところです。ただし、うっかりミラークラッチを締めたままピントを動かすと、主鏡が傾いてしまいかねないのでその点は注意が必要です。

また、ミラークラッチと言えども効果は完璧ではなく、写真撮影で長時間露出を行うと流れが発生することが多いです。短時間露出なら気にならないこともありますが、万全を期すならガイド鏡ガイドではなくオフアキシスガイダーを利用することをお勧めします。

ピントノブの回転自体は比較的スムーズですが、眼視、写真ともに天体を強拡大した状態で使用することが多い鏡筒なので、ノブを回すたびに手の振動が伝わって気になります。価格を考えれば仕方がない部分はありますが、写真用途を前面に押し出している鏡筒なのですし、軽く回せる、しっかりした微動装置を標準装備にしてほしいところです。

接眼部はいわゆるシュミカセネジになっていて、ここに31.7mmのアダプター(ビジュアルバック)を付ける構造になっています。このままだと2インチスリーブのパーツは取り付けられませんが、ビジュアルバックは色々なものがサードパーティーから出ているので、必要に応じて交換するとよいでしょう。

付属のファインダーは9×50と、最近流行のやや大きめのものです。覗きやすさはまずまずですが、暗視野照明はないので、暗い空では十字線が見づらいかもしれません。ファインダーの視差の調整はXY式で、昔ながらの3点支持のネジ式のものに比べると視差調整がやりやすく、一度セットしてしまえばめったに狂うことはありません。

ドブテイルバー(アリガタ)は、私が買ったものではビクセン互換のものが装着されていました。すでにビクセンの赤道儀を利用していれば、特に何も買い足すことなく架台に載せることができます。

性能

EdgeHDの性能を引き出すには、十分な温度順応と光軸調整が必須です。できれば観測開始の1時間以上前から外気にさらしておきましょう。また、光軸については観測のつど確認し、必要に応じて調整を行います。この鏡筒の場合、シュミットカセグレンについて巷で言われるほどには光軸は狂わない印象ですが、それでも油断しないに越したことはありません。

こうしてしっかり調整した鏡筒で見ると、屈折系とは異なり、色収差のほとんどないクリアな見え方です。集光力が大きいため、月は倍率をかなり上げてもまぶしいくらいで、ムーングラスは必須です。解像度はさすが口径20cmで、月面を拡大して見るとまるで宇宙船から見下ろしているかのよう。惑星についても倍率が上げやすいため、かなりの迫力で楽しむことができます。コントラストは屈折に比べると確かにやや劣る印象ですが、それでも大口径ゆえの高倍率で押し切ってしまう印象があります。

直焦点撮影時の星像(左:中央, 右:右上隅, EOS KissX5使用)

一方、写真性能についてですが、直焦点撮影においてはメーカーの謳い文句にたがわず良像範囲は広く、周辺減光も少なめです。色収差もほとんどなく、ニュートン反射のようなスパイダーによる回折もないので、基本的に素直な星像です。しかし2032mmという長い焦点距離のためシーイングの影響を受けやすく、星像がぼってり膨らんだ印象になりがちなのは仕方のないところ。この影響でピントの山もややつかみにくいです。また、焦点距離の長さに加えてF値が10と暗いため、ガイド撮影の難易度はかなり高め。少なくとも、ビクセン規格のドブテイルバーとビクセンのアリミゾ(ネジ1本で留めるタイプ)の組み合わせでは確実に強度が足りないので、なんらかの強化策が必要です。

レデューサー使用時の星像(左:中央, 右:右上隅, EOS KissX5使用)

なお、EdgeHD800には専用のレデューサーが用意されており、これを使えば焦点距離1400mm、F7となって多少扱いやすくなります。周辺減光はそれなりに大きくなりますが、星像はかなり優秀な印象(周辺部ではわずかに尾を引きますが)なので、積極的な利用を考えてもいいと思います。

また、動画カメラを使った惑星などの拡大撮影も問題なくこなせます。ただ、ビジュアルバック経由で拡大撮影系を接続する場合、系の大きさ、重量によっては31.7mmアダプタの固定力が不足する(ED103Sにおけるフリップミラーと同様、固定ねじが緩む)ことがあるので、その場合は接続方法の工夫が必要です。

まとめ

最新の光学系らしく、基礎性能の高い優秀な鏡筒という印象です。残存収差やミラーシフトなど、従来型のシュミットカセグレンの弱点を着実に潰していて、バランスのとれた万能機に仕上がっています。サードパーティー製の部品を導入することでパワーアップできる余地が大きいのも楽しいところで、このあたりの懐の広さは海外製ならではと言えるでしょう。

同口径のC8との価格差は35000円ほどですが、性能や使い勝手の差を考えれば、特に写真用途を意識した場合はEdgeHD800の方に軍配が上がるかと思います。ただ一方で、より口径の大きなC9 1/4とEdgeHD800との価格差は小さいため、架台の搭載重量が許す場合、口径を取るか総合性能を取るか悩ましい選択を迫られることになりそうです。

(おまけ)EdgeHD800のカスタマイズ

EdgeHD800は比較的よくできた鏡筒だと思いますが、実際に使い始めてみると不満に思う部分も少なくありません。そうした点は、自分の使い方やシステムに合わせて積極的にカスタマイズしていきましょう。私が行っているカスタマイズはこちらで紹介しています。

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