光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

双眼鏡から始めるという選択

肉眼で楽しめる天文現象は分かったし、星座や星の名前も覚えた。それでも望遠鏡がほしいという気持ち、分かります。むしろ、知れば知るほどよけいに関心が増すというものです。ここで一気に望遠鏡に走ってもいいのですが、それとはまた別に、双眼鏡で空を眺めてみるのもよいと思います。

双眼鏡のいいところは、なんといっても手軽に使えることです。倍率はそれほど高くないので惑星の模様を見るなどは当然できませんが、月のクレーターくらいなら意外とわかります。また望遠鏡に比べて視野が広いので星座の星の並びを追ったり、プレアデス星団(すばる)や彗星のような広がりのある天体を見るのにはうってつけです。旅行先に気軽に持っていけるのも魅力ですね。

なんにせよ、1台持っていて損のない器械です。

双眼鏡のスペックと性能

では、天体観測・観望に向いた双眼鏡はどんなものでしょう?

双眼鏡の性能・性格は、対物レンズの口径、倍率、視野の広さでおおよそ決まります。

双眼鏡本体を見ると、どこかに上の写真のような表記があると思います。「10×42」というのは「倍率10倍、口径42mm」を示しています。また「Field」は視野の広さ(実視界)のことで、双眼鏡で見える範囲の広さを示しています。

まずは対物レンズの口径について。あとで望遠鏡の項で詳しく書きますが、望遠鏡や双眼鏡の基本性能を決めるのは対物レンズの口径です。これが大きいほど多くの光を集められるため、より暗い天体まで見え、また、細かいものを見分ける能力が高くなります。しかし一方で、対物レンズが大きいと双眼鏡は大きく重くなり、「手軽に使える」という利点を損なうことになります。また、価格にも直接跳ね返ってきますので、架台への据え付けを前提とした大型双眼鏡を別にすれば、口径40~50mmくらいが天体用としては適当でしょう。

次に倍率ですが、これはおおよそ7~10倍程度が標準的なところです。これより倍率が高いと手ブレの影響が大きくなるため、架台の使用が前提となって、やはり利点を損なうことになります。

そして視野の広さ(視界)です。視界には「実視界」と「見掛け視界」という二種類があります。「実視界」は実際に双眼鏡で見えている範囲、「見掛け視界」は双眼鏡で覗いた景色が目の前にどの程度広がって見えるかを示しています。実視界が狭いと覗いたときにどこを見ているのかが分かりにくいですし、見掛け視界が狭いと井戸の底から覗いているような感覚になって不快です。

見掛け視界は、簡単には「実視界×倍率」で計算され、これが65度以上のものを「広視界双眼鏡」と呼んでいます。できればこれを満たすようなものを選びたいところです。(厳密には、最新の基準において見掛け視界は「2×tan-1(倍率×tan(実視界/2))」で定義されていて、これが60度以上のものを「広視界双眼鏡」と呼んでいます。本文のは旧基準での定義ですが、計算結果は新旧で大差ないので、実用上はほとんど問題ありません。)

また、口径と倍率から計算される「ひとみ径」と呼ばれる数字もしばしば重視されます。「ひとみ径」は「口径÷倍率」で計算される数字で、アイピースによってできる対物レンズの像の直径を表しています。対物レンズが集めた光がこの直径の円内に集中する、と言い換えてもいいでしょう。

ヒトの瞳孔は暗闇で最大7mm程度まで開くと言われているので、ひとみ径が7mm程度あると対物レンズからの光が無駄なく、かつ満遍なく目に届くことになり、明るい像を得ることができます。逆に、ひとみ径があまりに小さいと像は暗くなり、暗い天体が見づらくなってきます。

双眼鏡の選び方

以上のような点から、天体観測用の双眼鏡としては「倍率7倍、口径50mm」(よく「7×50」と表記されます)のものがスタンダードとして昔から人気があります。

ただ、実際に店頭で見てみると分かりますが、7×50の双眼鏡はかなり大きくて重いです。天体観測専用と割り切るなら構いませんが、スポーツ観戦やハイキングのお供など、他の用途にも使おうと思うといささか重装備にすぎる印象は否めません。普通の人は用途別に複数の双眼鏡を買い揃えるようなことはなかなかしないでしょうし……。

また、上で「ひとみ径が7mm程度あるといい」といったことを書きましたが、街なかで星を見る場合、空や周囲が明るいため瞳孔はせいぜい5mm程度までしか開かないと言われています。このような条件下だと、ひとみ径が7mmあるような双眼鏡では集めた光が無駄になるばかりでなく、背景が明るいためにかえって暗い天体が見づらくなるという弊害が出てきます。また、瞳孔の開き方には個人差がある上、年齢とともに開き方が小さくなるとも言われています。

このような理由から、ここはあえて「倍率7~10倍、口径40mm程度」の双眼鏡をお勧めしておきます。このクラスなら大きさ、重さもほどほどですし、様々な用途に幅広く対応できます。私が主に使っているのも、昔からこのクラスです。

あと、視野全体を見渡すことのできるアイピースから目までの最短距離を「アイレリーフ」といいますが、この距離が大きい方が双眼鏡は覗きやすくなります。アイレリーフが極端に短いと、目をアイピースにくっつくけるようにして覗かなくてはならず、快適性が損なわれます。特にメガネをかけている場合は問題です。アイレリーフを長くとった設計の双眼鏡は「ハイアイポイント」、「ハイアイ」などと謳われていることが多いので参考にするとよいでしょう。せめて15mm、欲を言えば20mm以上のアイレリーフがあるとずいぶんと覗きやすくなります。

もし新規に双眼鏡を買う場合は、メジャーなメーカーのしっかりした製品を選べば間違いないでしょう。国内メーカーでは、具体的にはビクセン、ニコン、フジノン(富士フィルム)、ペンタックス、コーワといったあたりです。これらのメーカーの製品で、上記のスペックを満たすものであれば、どれを買っても後悔するようなことにはまずならないでしょう。逆に、新聞の通販で売られているような、やたらと倍率が高かったり、高倍率ズームを謳っていたりするもの、「紫外線を遮る」などと称してレンズに異様にギラギラしたコーティングが施されているものなどは100%粗悪品ですので、絶対に手を出さないようにしましょう。

値段は、高級機種になると20万円を超えるようなものまでありますが、まずは定価2~5万円程度をスタート地点とするのがとっつきやすいかと思います。このくらいの価格帯はちょうどボリュームゾーンで、各メーカーの主力商品がそろっています。

そして、できれば量販店で実物を手に取って覗いてみてください。手に持った時に感じる重さや、視界の広さの雰囲気、見え味、覗きやすさなど多くのことが分かります。百聞は一見にしかず、です。

主なチェックポイント

重さ
手に持った時、首にかけた時に重すぎないか?
覗きやすさ
眼鏡をかけている場合は特に要チェック。無理なく視野全体を見渡せるか?レンズに対して多少目の位置や角度がずれても、そこそこ視界が保てるか?ちょっと目の位置がずれただけで視野が真っ暗になってしまうようなものは×。
ピントの合わせやすさ
多用途に使うことを考えた場合、様々な距離に素早くピントを合わせられることが使いやすさに直結する。天体観測専用にする場合は別だが、片目ずつピント合わせが必要だったり、ピントリングをたくさん回さないとピントが合わないようなものは避ける。
色にじみの有無
屋外の場合は青空を背景にした木の枝や電線、点灯している街灯、屋内の場合は蛍光灯などにピントを合わせ、対象物の周囲に目立った色にじみがないか確認する。
視界の広さ、歪み
視界は十分に広いか?また、極端なゆがみや像の崩れを感じないかどうか?カタログ上は視界が広くても、実際に覗くと像質が悪かったり、視野周辺がやたら暗かったりする場合がしばしばある。また、歪みが大きいと、覗いたまま横に振った時などに酔いそうな不快感を感じることがある。
視界の明るさ、色づき
視界が極端に暗くないか?逆に、視野全体が白っぽく霞んだように見えないか?視野全体が黄ばんだり青みがかったりしていないか?

あと、双眼鏡を三脚に据え付けるためのアダプターは、ぜひ同時に買ってください。双眼鏡を手で持って流し見するのも楽しいですが、三脚に固定して使うと手ブレがなくなる分、落ち着いて観測できます。

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