光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

街なかで楽しむガイド撮影

明るめの星雲・星団なら別項で書いた、赤道儀任せの「超お手軽撮影法」でもなんとかなりますが、もう少し本格的に撮ろうと思えば、いわゆる「ガイド撮影」が必須になってきます。

星は地球の自転に伴い、北極星の方向を中心に円を描くように動いていきますが、赤道儀を使った撮影では軸の1つ(極軸)を自転軸と平行にし、地球の自転をキャンセルするように架台を動かすことで星を点に写します。いわゆる「流し撮り」と同じ理屈です。しかし、極軸の設置精度や赤道儀自体の機械的精度、大気の屈折による星像の浮かび上がりなど、様々な要因により星像はなかなか点には写りません。そこで、撮影に使う望遠鏡とは別にもう1本望遠鏡を載せ、実際の星の動きを監視して赤道儀の動作に修正を加えようというのが「ガイド撮影」の基本的な考え方です。

昔は星の動きの監視と修正作業を人間がすべて人力でやっていたのですが、現在では、専用のカメラと赤道儀に指令を送る装置を組み合わせた「オートガイダー」と呼ばれる装置を用いるのが普通です。

街なかでの撮影で注意する点

さて、このサイトでは一貫して「街なかでの活動」に絞って書いていますが、街なかでガイド撮影を行う場合、山などで撮影を行う場合とはまったく別の注意が必要になってきます。

もっとも注意しなくてはいけないのは撮影場所です。ガイド撮影はたいてい長時間にわたるので、その間、安全に望遠鏡を展開していられることが大前提になります。車や人通りの多い路上は論外で、たとえ交通量の少ない深夜の住宅街などであっても、車が通る可能性がある以上、路上は積極的にはお勧めできません。単純に危険ということもありますし、もし道をふさぐように望遠鏡を設置していた場合などは、車が通るたびに撤収と設置をやり直さなければなりません。

また、街なかでは上空を縦横無尽に這う電線も大敵です。星の位置は時間とともに動いていきますので、撮影途中で被写体が電線にかからないよう、望遠鏡の展開場所や構図に配慮が必要です。

こういった点を考えると、自宅の庭や屋上といったパーソナルスペース、または空が比較的開けている公園などで撮影するのが一番理想的かと思います。ともあれ、周囲の迷惑にならないよう、最大限の注意をお忘れなく。

ガイド撮影に必要なもの

「星雲・星団の撮影」の項で挙げた機材に加え、ガイド撮影では以下のような機材が必要になってきます。予算はどのような機材を選ぶのかによって大きく変わってきますが、ひとまず5万~10万円も追加すれば一通りのシステムは組めると思います。

ガイド鏡

ガイドスコープとも言います。実際の星の動きと赤道儀の動きとの差を監視するための望遠鏡で、オートガイダーのカメラを取り付けて使います。星の動きを監視するだけなので、とりあえずは安物でもOK。それよりは小型軽量であること、しっかりしたつくりであることの方が重要です。撮影用鏡筒とともに赤道儀に載せるので、重いとそれだけで架台の負荷になりますし、長いと風や振動に弱くなります。また、作りがあまりに貧弱だとガイド鏡自身がたわんでしまって正しいガイドができなくなります。

以前は口径6~8cm、焦点距離400~600mm程度の短焦点屈折望遠鏡を用いる例が多かったのですが、最近ではオートガイド用のカメラが高感度化・高画素化していることもあって、ガイド鏡はかなり小型のものでも実用になるようになってきています。昔は撮影鏡筒の焦点距離と同等もしくは2/3程度の焦点距離のものが必要と言われていましたが、今では1/10以下でも十分ガイドできる例も出てきているようです。そのため、工業用カメラレンズやファインダーのような小型の光学系を利用する例もよく見かけるようになりました。

オートガイダー

人間の目の代わりに動画カメラでガイド鏡を覗き、星の動きを監視してくれる装置です。星の動きのズレが検出されたら、赤道儀に直ちに指令を送ってズレを修正します。

オートガイダーには大きくPCが必要なタイプとPC不要のタイプ(スタンドアロン型)とに分けられます。

前者はオートガイダーをPC上のソフトで制御するもので、PCを持ち出さなければならない不便はありますが製品の選択肢が多く、一般に高感度です。オートガイダーの感度が低いと、視野内にガイドに使える星がないという事態が起こりがちで、これを回避するためにガイド鏡を独立に動かすための「ガイドマウント」が別途必要になったりします。しかしオートガイダーが高感度なら、街なかであってもこうした事態はほとんど避けられます。最近人気があるのはQHYやZWOpticalといった中国メーカーの製品で、性能の割に低価格、本体も小型で、しかも動画カメラとして惑星の撮影などにも流用できるという便利さです。なお、制御用のソフトはメーカーが添付している場合もありますが、フリーウェアの「PHD2」が人気で、利用者も多いです。

一方のスタンドアロン型のオートガイダーですが、こちらは選択肢が少なく、現行製品は2~3種類くらいしかありません。PCを持ち出さなくて済むという利点はありますが、PC接続型のものに比べて一般に感度の低い製品が多く、広い画面やキーボードを使えないので星像の確認を含め操作に慣れるまでが少々大変かもしれません。また、価格競争力の関係からか撮像素子がPC接続型のものに比べて小さく、視野が狭くなりがちなのも欠点です。ただ、最近発売されたハンガリーLACERTA社のM-GENあたりは機能、性能ともになかなかのものを持っているようなので、撮影スタイルによっては有用な場合もありそうです。

オートガイドソフト

PCが必要なタイプのオートガイダーを用いる場合、オートガイダーからの信号を解釈して赤道儀に修正信号を受け渡す、制御ソフトが別途必要になります。オートガイダーのメーカーが独自にそのためのソフトを添付してくれる場合もありますが、多くの場合、汎用のオートガイドソフトを用いることになります。

日本国内を含め、世界中で最も広く使われているのはPHD2(またはその前身のPHD guiding)でしょう。現在使われているほとんどのオートガイダーに対応しているうえ、フリーウェアで大変使いやすいソフトです。インターフェイスの日本語化も進んでいますし、使いこなしのノウハウもたまっているので、なまじメーカー独自のソフトを使うよりはこちらの方が便利だろうと思います。

ガイド鏡の同架方法

オートガイダーを接続したガイド鏡は、撮影用鏡筒と同じ架台に載せなければなりませんが、その載せ方には、好みや個々人の工夫によって様々なスタイルが存在します。代表的なのは以下の2つのスタイルです。

並列同架式

並列同架式

赤道儀に金属プレートを載せ、その左右に撮影用鏡筒とガイド鏡を平行に載せるスタイルです。望遠鏡を載せるプレートは、マルチプレート、マッチプレートなどの名前で望遠鏡メーカーなどから販売されているネジ穴がいくつも空いたプレートで、このネジ穴を利用して望遠鏡を固定します。

システム全体の高さが望遠鏡を1本だけ載せた場合とあまり変わらないので安定感があり、望遠鏡やカメラの操作がしやすいのが利点。また、極軸から望遠鏡までの距離が短く保たれているため、極軸周りに関して言えばモーメントの負担が比較的少なく、ガイドマウントなどを使用しても赤道儀への負担は軽くて済みます。

しかし、バランスを取るのが少々難しくなります。望遠鏡が1本だけであれば、極軸周りのバランスと赤緯軸周りに望遠鏡の前後方向だけバランスを取ればOKですが、並列同架の場合、赤緯軸周りの左右方向についてもバランスを取らなければなりません。これが結構厄介で、バランスがちゃんと取れていないと赤緯軸周りで追尾エラーが頻発することになります。

並列同架のバランスの取り方についてはこちらをご覧ください。

最近では、上述のようにガイドシステムが大幅に小型化したこともあり、新規にシステムを組む場合にはあまり使われなくなってきました。

上下同架式

上下同架式

撮影鏡筒の上にガイド鏡を載せるスタイルで、通称「親子亀方式」。構成がシンプルで、並列同架式のようなバランス取りの厄介さはありません。しかし、極軸から離れた位置にガイド鏡が載るため、赤道儀へのモーメント負荷が相対的に大きくなります。特に撮影鏡の口径が大きい場合は要注意。システム全体としても腰高になりがちなので、この載せ方をする場合、ガイドマウントを含め、あまり重量のあるガイドシステムは載せない方がいいでしょう。

コバンザメ方式

このほか、上下同架式の変形として、上のような「コバンザメ方式」とでもいうべき同架方法もあります。この例では、鏡筒の下のアリガタにアリミゾを介してガイド鏡を取り付けています。この方法の利点は、ガイド鏡が極軸に近くにあるため赤道儀へのモーメントを軽減できる点で、前後バランスさえうまく取れれば有効な方法です。

また、上で書いたように最近は超小型のガイドシステムも登場しているため、ファインダー脚を利用して取り付けるなど、システムの組み方の自由度は飛躍的に上がってきています。自分が運用しやすい方法を探ってみてください。

ガイドマウントについて

ガイドマウント

上でもしばしば出てきた「ガイドマウント」という言葉ですが、これはガイド鏡を独立に動かすための精密な雲台のようなものです。

ガイド鏡は撮影用鏡筒と同架する関係上、基本的に撮影用鏡筒と同じ方向を向くわけですが、その方向にあるのが暗い星ばかりで、ガイドに適した明るさの星が見当たらない場合があります。このようなとき、ガイド鏡がガイドマウントに載っていれば、ガイド鏡の方向をわずかに動かし、オートガイダーの視野の中に適当な明るさの星を導入してやることができます。

上の写真のものでは、向かい合ったネジ二組で雲台部分の上下方向、左右方向のそれぞれを調整、固定することができるようになっています。

しかし、このガイドマウントの作りがヤワだと、ガイド中にガイド鏡の向きがズレてしまい「星の動きを追尾していたつもりが実はガイド鏡の動きを追尾していた」などということになりかねません。こうなると当然撮影は失敗です。これを避けるためには十分に頑丈なガイドマウントを使用すればいいのですが……そのようなマウントは大きく重いことが多く、システム全体の重量負荷が増してガイドの安定性がかえって損なわれてしまうというジレンマに陥りがちです。

ではどうしたらいいか、ですが、根本的解決策としては「ガイドマウントを使わない」ことに尽きると思います。ガイドマウントがないとガイド鏡の向きに自由度が一切なくなりますが、最近のオートガイダーは高感度なので、都心であっても大抵は視野内にガイドに適した星が見つかります。私自身、これで困ったことは今まで1度もありません。

もし星が見つからないということが頻発するようであれば、オートガイダーを古いものから最新のものに交換して感度を上げる、ガイド鏡の焦点距離を短くしたり、オートガイダーを撮像素子の面積が大きいものに交換するなどして視野を広げる、といった手段を取る方が、下手なガイドマウントを導入するより有効なように思います。

オフアキシスガイドについて

ここまではガイド鏡を撮影に用いる鏡筒と別に用意することを前提に話をしましたが、撮影用鏡筒そのものを用いてガイドを行う方法もあります。それが「オフアキシスガイド」と呼ばれる方法です。

直焦点撮影を行う場合、カメラは望遠鏡の視野全体を写し取るわけではありません(アイピースで望遠鏡を覗くと視野は丸いのに、カメラで写る範囲は四角いことを考えれば分かるでしょう)。視野の端の方には、撮影に使われない領域が残っています。そこで、この撮影に使われない領域にある星をガイドに利用してやろうというのがオフアキシスガイドの考え方です。具体的には、「オフアキシスガイダー」と呼ばれる装置を望遠鏡とカメラの間に挟み、小型のプリズムで写野外の星の光を直角方向に導き出してオートガイダーでこの星像を追尾します。

オフアキシスガイダーの例
オフアキシスガイダーの例
鏡筒とカメラの間に挟まっているのがオフアキシスガイダーで、内蔵されたプリズムにより望遠鏡の光軸と垂直な方向に光を導き出し、これをオートガイダーで捉えます。上写真の機材(セレストロン オフアキシスガイダー)の場合、プリズムは円周方向に360度回転できるようになっており、ガイド星を探しやすいようになっています。

この方法の利点は2つあります。1つは、ガイド鏡が不要になるので機材の重量が軽くて済むこと、もう1つは、撮影鏡筒そのものでガイドを行うので、機材のたわみによるガイドのずれを気にしなくてよくなるという点です。特に後者は、長焦点での撮影を行う場合に大きなメリットになります。

しかし弱点もあります。一番大きな問題は、ガイド星を見つけにくいという点です。特に、最もメリットを享受できるはずの長焦点鏡での撮影では、オートガイダーの視野が極端に狭くなる上、しばしばこうした機材での撮影対象となる系外銀河が星の少ない領域に多いこともあり、視野内に適当なガイド星がないということが起こりがち。暗い星が見えづらい都心ではなおさらです。

また、純正品としてオフアキシスガイダーが用意されている場合を除き、光路の途中に本来メーカーの方で想定していない余分な機材が挟まるわけですから、望遠鏡のフォーカス調節可能範囲によってはそもそもピントが合わない場合があります。一般に撮像素子までの距離が厳密に決められているレデューサーなどの補正光学系も、併用できない場合が多いです(レデューサーの場合、周辺像の劣化と減光が激しくそもそも使用に向かないという面もあります)。

さらに、撮影用のカメラ側とオートガイダー側で同時にピントが合うように適切な延長筒の組み合わせを選んだり、プリズムの位置がカメラの写野をさえぎらないよう、プリズムを差し込む深さを変更したりと、事前に様々な調整が必要なのですが、これがなかなか面倒な作業。一度設定が決まってしまえばその後の調整は不要ですが、最初に使えるようになるまでが一苦労です。

使いこなせれば便利な装置ではありますが、あまり初心者向きとはいえません(逆に言えば、長焦点での撮影がそれだけ難しいということでもあります)。

↑ PAGE TOP