光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

彗星の撮影

追尾 しない/する
撮影機材 一眼レフ(一部のコンパクトデジカメも可)
撮影方法 通常撮影/直焦点撮影
難易度 中~やや高

夜空に長い尾を引いて現れる彗星は、その特徴的な姿のために被写体として人気の天体です。特に、肉眼彗星ともなるとTVや新聞でも取り上げられ、一般の人を巻き込んで大騒ぎになることもしばしばです。古くはハレー彗星や百武彗星、ヘール・ボップ彗星、最近ではパンスターズ彗星やアイソン彗星が大きな話題になりました。撮影を試みた人もいるかもしれません。

彗星撮影は情報戦

天球上での位置が変わらない恒星などと違い、彗星は刻々と位置が変わります。極端な場合は、肉眼でも1時間くらいのうちに位置が動いたのが分かるほどです。また、明るさや尾の伸び具合も日にちとともに変化します。そのため、彗星を撮るには現在位置や明るさについての最新情報が必要です。

誰もが肉眼で見て存在が分かるような大彗星は別ですが、そうでない場合は天文台や研究機関が発表する各種予報を参照します。これらの予報はインターネットで直接参照することもできますし(たとえばInternational Comet Quarterly(英語)など)、天文雑誌にも分かりやすい形で掲載されています。また「ステラナビゲータ」のようなプラネタリウムソフトを持っている場合は、より詳細に位置や見え方を確認することができます。

彗星撮影は時間との勝負

彗星は太陽に近づくほど明るくなり、尾も伸びるので、観測や撮影は夕方、日の沈んだ後の西の空か、夜明け前の東の空を狙うことが多くなります。しかし、機材のセッティングから撮影までにあまり時間を取られていると、夕方なら彗星は沈んでしまいますし、明け方だと太陽が昇ってきてしまい撮影どころではなくなります。セッティングなどは時間の余裕を持って行い、撮影計画も事前にしっかり立てておくことが重要です。また、夕方や明け方の薄明かりの中では、よほどの大物を除き、彗星は意外と見つけにくいものです。見える方角や高度についても、事前によく確認しておきましょう。

なお、見えづらい天体を見つけるのに非常に役立つ自動導入型の架台ですが、特に夕方の彗星観測・撮影に使用する場合、明るいうちに設置せざるを得ず極軸を正確に合わせるのが難しいこと、同じく明るいうちはアライメントを行えないことなどを考えると、過度の期待は禁物です。

実は都心でも結構大丈夫

夕方や明け方の低空に現れる彗星の場合、実は都心でも撮影は問題なくできます。というのも、空がまだ太陽の残照で明るいためで、この時間帯だと光害の有無は関係ありません。むしろ、乾燥していて見通しが効き、河川敷やビルの屋上など低空が開けた場所を確保しやすい都心の方が有利な場合すらあり、郊外ではかえって樹木や山並みが邪魔になることもしばしばです。

ただし、日が沈みきっても見えているような彗星の場合、尾の見え方・写り方は、当たり前ですが光害の有無で大きく違います。

固定撮影で狙う

さて、実際の撮影ですが、一番手軽なのは一眼レフとカメラレンズ、三脚を用いた固定撮影です。ある程度明るい彗星なら、これで十分写ります。機材のセッティングが手短に済ませられるのは、時間勝負の彗星撮影にとって大きな利点。うまく構図を取れば地上風景も捉えることができて、より印象的に仕上がります。

撮影方法自体は星の固定撮影とほとんど同じですが、難しいのはピントと露出の設定です。ピントについては、薄明中だと実際の星で合わせるわけにはなかなかいかないので、遠くの建物などを利用してピントを合わせます(彗星撮影に向く、低空の開けたところならピント合わせの対象には困らないはず)。もし月が出ているなら、これを利用するのもよいでしょう。

一方の露出ですが、同じく薄明中なので、あまり露出を多くし過ぎると背景の空が明るくなりすぎて彗星が埋もれてしまいます。しかも時間とともに空の明るさは刻々と変化するので、適切な露出条件も変わってきます。露出条件を振って、なるべくたくさん撮っておくのが安全でしょう。

追尾撮影で狙う

彗星の軌道や大きさによっては、夜中でも比較的明るく見える場合があります。こうした彗星はぜひ赤道儀による追尾撮影で狙ってみましょう。撮影には望遠レンズや望遠鏡の直焦点を用います。撮影時は、尾の伸びる方向に若干構図の余裕を持たせるよう注意します。撮影した直後は分からなくても、画像処理をすると意外と尾が伸びていることがあるためです。

基本的な撮影方法自体は、普通の星や星雲・星団の追尾撮影と同じなので詳細はそちらに譲りますが、彗星の場合、1つ気を付けなければならないことがあります。それは、彗星自体が刻々と星空の中を動いていくということです。

彗星は太陽に近づくほど軌道上の移動速度が大きくなりますし、地球に接近した場合も見掛けの移動速度が大きくなります。そのため、普通の天体と同じように露出時間を長くして撮影するとぶれてしまうことがあるのです。これを防ぐ方法は大きく3つあります。

メトカーフ法

彗星の軌道要素から彗星の移動の方向と大きさをあらかじめ割り出し、実際の撮影時にその移動量に見合った分だけ、赤経軸、赤緯軸を余分に動かす撮影方法です。銀塩フィルム時代には、彗星を正確に追尾して撮影するには事実上この方法しかなく、手動でこの操作をこなす猛者もいましたが、現在では自動化が進んでいます。

例えば、高橋製作所のガイド装置である「α-ルクバト」はメトカーフ法の設定ができますし、オートガイド用ソフトの定番ともいえる「PHD2」にも同様の機能があります。

また、ビクセンの赤道儀コントローラである「STARBOOK TEN」には「彗星追尾モード」が備わっていて、事前に彗星の軌道要素を入力しておけば、彗星を自動導入した際に事実上メトカーフガイドと同様の動作をします。ただし、こちらはガイド星の動きを手掛かりにしているわけではなく、彗星の動きをいわば「決め打ち」している方法なので、赤道儀がある程度正しく設置されていることが前提になります。

メトカーフコンポジット

現在のデジカメは高感度なので、比較的短い露出時間でも彗星を捉えることができます。そこで、彗星の固有移動が目立たない程度の短い露出時間で複数枚撮影を行い、これらを画像処理ソフト上で、彗星の固有運動の分だけずらして重ね合わせ(コンポジット)ます。ちょうど上記のメトカーフ法と同様の効果が得られるので、この方法を「メトカーフコンポジット」と呼びます。

「ステライメージ」がこのコンポジット法を実装していて、彗星の赤経方向、赤緯方向の移動量を入力することで自動的に処理を行ってくれます。また、彗星核が明るい場合には、細かい移動距離の計算をしなくても手動で彗星核を基準にコンポジットすることで同様の効果が得られます。

彗星核追尾

彗星の核が明るい場合、オートガイダーに彗星を直接追尾させることでメトカーフ法と同様の効果を得ることができます。最近のオートガイダーの高感度ぶりが可能にした技ですが、彗星自体を追尾するため、成功すれば最も理想的な方法といえます。ただ、彗星核は恒星と違ってボウッと広がっているので、核への集光が強くない彗星の場合、うまく追尾できないことがあります。ガイドに用いるソフトのパラメータを調整しなければならない場合もあり、ハマると厄介な方法でもあります。

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