光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

恒星(星座)の撮影

追尾 しない/する
撮影機材 一眼レフ(一部のコンパクトデジカメも可)
撮影方法 通常撮影
難易度 低~中

恒星(星座)の写真は簡単な機材で始められるので、昔から初心者が撮影する天体写真の定番とされてきました。試しに、手持ちのカメラを三脚にセットし適当に空に向けてみましょう。カメラの設定は、感度は高め(ISO800~3200くらい)にし、シャッター速度は長め(数秒~30秒程度)、絞りは開放か、一段絞った程度にします。レンズの焦点距離は35mm版換算で35~50mm前後が使いやすいでしょうか。ピントについては、基本的にマニュアルで合わせます(たいていの場合、夜空が相手だとAFはうまく動作しません)。1等星のような明るい星や月を視野に入れ、ライブビューで拡大しながら慎重に合わせ、ピント位置をそこで固定します。

そして撮りたい構図にカメラをセットし、セルフタイマーやリモコン、レリーズなどを使って静かにシャッターを切ってください。撮った画像を見てみると……街なかでも意外と星が写っていて驚くと思います。そう、きれいかどうかは別にして、単に「撮るだけ」なら意外と簡単なのです。

手持ちで撮影した冬の星座
上では三脚やレリーズを使用することを前提で書きましたが、最近の機種は手ブレ補正も強力なので、うまくやればこの写真のように手持ちで撮ることすら不可能ではありません。しかもこれはコンパクトデジカメ(!)で撮ったもの。東京都心での撮影ですが、元画像を星図と照らし合わせると5.5等くらいまで写っていました。2015年12月20日, Canon PowerShot S120, 5.2mm(35mm判換算:24mm), F1.8, ISO3200, 1秒

星の軌跡を撮る

上記の試し撮りの際、シャッター速度を長めにしたり、あるいは焦点距離が長めのレンズを使っていたりすると、星が東西方向にわずかに流れているのに気付くと思います。これはもちろん、星の日周運動によるものです。昔から天文に興味のあった人は、三脚にカメラをセットして空に向け、シャッターを開きっぱなしにして星の日周運動の軌跡を撮る……などという記事が図鑑や科学読み物に載っていたのを覚えているかもしれません。つまり、露出時間を何分、何十分と伸ばしてやれば、日周運動の軌跡が撮れるわけです。

しかし、この方法では空が非常に暗いところで撮らないと背景の空まで明るく写ってしまい、肝心の星の光が埋もれてしまいます。デジカメは銀塩フィルムより長時間露光時の感度が高いのでなおさらです。また、光害も昔より悪化してますので、その意味でもこの撮影方法は実行がだんだん難しくなってきています。

そこで最近では、比較的短めのシャッター速度で連写した多数の画像をパソコン上で重ね合わせて合成する「比較明合成法」という撮り方が主流になっています。比較明合成というのは、例えばAという画像をベースにBという画像を重ね合わせて合成するとき、Bの中にAより明るい部分があればそこだけを選択的に合成する、というやり方です。地上の風景は動かない一方、星だけは刻々と移動していきますから、この方法で星の軌跡を描き出すことができます。しかも1枚当たりの露出時間は抑えられていますから、背景が不必要に明るくなることもありません。

実際の撮影ですが、連写によって撮影枚数がかなり多くなるのでいちいち手動でシャッターを切るわけにはいきません。タイマーレリーズの類はほぼ必須です。また、メモリカードも大きめの容量のものを用意しておいた方が安心でしょう。

撮影時の設定は上記のものに準じますが、「シャープネス」はなるべく切っておきましょう。シャープネスが有効になっていると、個々の画像に施される強調処理の関係で、最後の合成の際に星の軌跡がきれいにつながらないことがあります。また、カメラによっては、長めの露出を行った後に同じ時間をかけてノイズ成分だけを撮影し、これを差し引く機能(メーカーによって名前が異なりますが、「長秒時ノイズ軽減」といった名前がついていることが多いです)を持ったものがありますが、可能ならこの機能も切っておきましょう。これが有効だと、露出の間にノイズ軽減処理が挟まってしまうため、やはり星の軌跡がつながらなくなってしまいます。

ここまでの準備ができたら、あとはカメラを撮りたい方向に向けてひたすら連写するだけです。

撮影後は比較明合成で写真を合成していきますが、手動で行うとかなりの手間です。KikuchiMagickSiriusCompなど、合成を自動化してくれる便利なフリーウェアも色々ありますので、これらを利用するとよいでしょう。

星を点に写す

一方、星を点に写したい場合ですが、方法は2つ。露出時間を限定するか、赤道儀で追尾するかです。

露出時間を限定する方法ですが、これは要するに、多少動いたとしても写真上で動きが小さければほとんど点に見えるだろう、という考え方です。露出時間が短くても星が写るよう、感度はなるべく高く、また絞りはなるべく大きく開きます。どのくらいの露出まで点像に写るかは、レンズの焦点距離や空のどの方角を写したかによって変わってきます。大まかに言えば、レンズの焦点距離が短いほど、また天の北極に近いほど露出時間を長くとることができます。実際の露出データについては「天文年鑑」に記載があるので参考にしてください。

次に赤道儀で追尾する方法ですが、最近ではこの目的のためにポータブル赤道儀(ポタ赤)が販売され、人気になっています。ポタ赤は広角~中望遠くらいまでのレンズを装着したカメラを載せることを念頭に設計された小型の簡易赤道儀で、代表的な機種としてはビクセンのポラリエやサイトロンのナノ・トラッカー、ケンコー・トキナーのスカイメモシリーズなどがあります。いずれも小型軽量で、旅行などにも気軽に持っていくことができるのが利点です。ただし、赤道儀である以上、極軸を合わせるといったセッティング作業は必須ですし、一般的な天体撮影と同様、振動などにも気を配る必要があります(ポタ赤の場合、機材重量が軽いので特に)。手軽な印象なので簡単に撮影できるだろうと思いがちですが、最低限の気配りは必要です。

もちろん、望遠鏡を載せる普通の赤道儀にカメラを載せても構いません。この場合、カメラだけを載せたのでは軽すぎて架台のバランスが取れないことがあり、望遠鏡と同架することもよく行われます。さらにガイド撮影の機材を持っていれば、かなりの精度で追尾できるので露出時間を長くすることができます。

あと、ペンタックスの一眼レフ限定ですが、同社のGPSユニットや最近の機種に内蔵の「アストロトレーサー」を使う手もあります。これは手ブレ補正機能の仕組みを利用して撮像素子を星の日周運動に合わせて動かし、星を点に写す機能です。簡易的な機能なので限界はありますが、赤道儀をいちいち持ち出さなくて済むのでちょっとした撮影には便利です。

ペンタックスのGPSユニット O-GPS1
これを対応機種に装着すると、GPS情報から取得した緯度で天体の動きを算出し、内蔵している磁気センサーおよび加速度センサーから得られたカメラの状態に応じて、イメージセンサーを天体の動きに同調して移動させる「アストロトレーサー」機能が有効になります。

さて実際の撮影ですが、赤道儀のセッティングをしたあとは冒頭に書いた撮影方法とほぼ同様です。このときも、タイマーレリーズの類があると撮影がはかどります。

なお、星を点に写すと、暗い夜空を背景にポツポツと白い点が写ってるだけ、という意外と地味な写真になりがちです。しかも、撮影条件によっては明るい星も暗い星も白く飛んでしまって、メリハリがなくなることも……。そのような時は、撮影画像ににじみを加えることのできる「ソフトフィルター」を使ってみましょう。このフィルターを使って撮影すると、明るい星ほど大きくにじんで印象的な仕上がりになります。星像に面積が生まれる分、星の色が分かりやすくなるのも利点です。ソフトフィルターは、効果の強さが違うものなど何種類もあり、それぞれ描写が異なってきます。ネット上には作例を含め、情報がいろいろありますので「ソフトフィルター 星」などで検索してみましょう。

ソフトフィルターを用いて撮ったおうし座
ケンコー・トキナーの「PRO1D プロソフトン[A](W)」を用い、赤道儀化AZ-GTiで追尾しながら撮影したおうし座です。ソフトフィルターの効果で明るい星がにじみ、1等星アルデバランの黄色やM45(プレアデス星団、すばる)の青色がハッキリしました。

街なかでの撮影

撮るだけなら比較的易しい星の写真ですが、街なかで撮るとどうしても光害の問題がついて回ります。ちょっとシャッター速度を伸ばしたり感度を上げたりしただけで、夜空がまるで昼間の青空のように写ったりすることもしばしばです。比較明合成で街の風景をも生かした作品を撮る場合を除き、かなり強力に画像処理を施す必要が出てくるので、撮影画像はなるべくJPEGではなくRAWで保存しましょう。また、追尾撮影を行う場合、ワンショットで満足な画像が得られることはまずないので、コンポジット(画像を重ねあわせてノイズを軽減する手法)することを前提に、同じ構図で複数枚撮影しておきましょう。具体的な画像処理の方法についてはこちらをご覧ください。

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