光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

勾玉星雲 IC405 & IC410(散光星雲、ぎょしゃ座)

撮影日時 2021年12月2日、3日
撮影機材 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm)、ビクセン SXP赤道儀
使用カメラ ZWO ASI2600MC Pro
ガイド鏡 ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)
オートガイダー ZWO ASI120MM
感度・露出時間 0℃, Gain=100, 露出900秒×16コマ(カラー)+Gain=300, 900秒×32コマ(Hα)
備考 IDAS LPS-D1 & Astronomik Hα 6nm使用

IC405とIC410は、いずれもぎょしゃ座にある散光星雲です。ぎょしゃ座と言えば将棋の駒のような五角形が特徴ですが、その五角形の真ん中下方、散開星団のM38のすぐそばにあります。このあたりはM36とM38という明るい散開星団に加え、赤く輝く散光星雲も広がっていて、写真に撮ると大変にぎやかな領域です。今回はIC405, 410を中心に、付近に広がる散光星雲や散開星団をまとめて捉えてみました。

IC405, 410の位置
IC405, 410の位置(ステラナビゲータ10を用いて作成)

西側(写真右側)のIC405はちょうど「コンマ」のような形をした散光星雲で、海外では中心部の燃えたつような構造を捉えて"Flaming Star Nebula"、日本では全体の形から「勾玉星雲」の愛称で知られています。この星雲を輝かせている「ぎょしゃ座AE」という星は「Runaway star」の異名を持ち、オリオン大星雲(M42)で生まれて飛び出してきた星です。現在も高速で宇宙空間を移動中で、その途中でたまたま行きあたったガスが輝いているのがIC405です。将来、「ぎょしゃ座AE」がこのガスから離れてしまえば、輝きを失って暗黒星雲に戻ってしまう運命にあります。

東側(写真中央下側)のIC410の方は「おたまじゃくし星雲(Tadpoles nebula)」や「どくろ星雲」の愛称で知られる星雲で、写真中央に見えるMelotte 31(メロッテ31)という星団を挟んでIC405の反対側にあります。

IC410の中心部
IC410の中心部

「おたまじゃくし星雲」という愛称は、上の写真のように、星雲の中におたまじゃくしのような形をした明るい領域があるためです。

このほかにも、このあたりは大小の散光星雲、散開星団が入り混じっていて、大変賑やかな領域です。

写野内の天体

IC417は比較的小さな散光星雲ですが、その周辺には蜘蛛の脚のように淡いガスが広がっていて、その姿から「スパイダー星雲」(Spider nebula)という愛称があります。そして、隣り合うNGC1931は、蜘蛛に狙われているハエのよう……ということで「ハエ星雲」(Fly nebula)と呼ばれています。星団の光が周囲のガスを電離させて輝く散光星雲(輝線星雲)の特徴と、星の光を反射する反射星雲双方の特徴を併せ持っていることから、オリオン大星雲(M42)のミニチュアに例えられることもあります。

また、M36M38、NGC1931は先日、個別に撮影した対象でもあります。Melotte 31とDolidze 20(ドリゼ 20)も、いずれも散開星団。それぞれ「メロッテカタログ」、「ドリゼの散開星団リスト」に掲載されているものです。これらのカタログについては、ブログのこちらの記事をご覧ください。

さて、このように大変バラエティに富んだ領域なのですが、特に散光星雲は大変淡く、比較的有名なIC405 & IC410でさえ光害の激しい東京都心から撮影するのは至難の業。4年前にデジカメで撮影したときも、あまりの淡さに大苦戦した覚えがあります。

そこで今回は、散光星雲の赤い光を捉えるため、この光のみを透過するHαナローバンドフィルターを用いて撮影を行い、これを通常撮影したカラー画像とブレンドすることとしました。具体的には、カラー画像を3色分解したのち、R画像にHαのR画像を「比較明」でブレンドしています。こうすることで、R画像に散光星雲の像が載り、一方でナローバンド撮影の泣き所である「恒星の存在感の薄さ」が軽減できるというわけです。

結果は上々で、この写真を見て「東京都心で撮った」とは、誰もにわかには信じてくれないだろうと思います。

IC405中心部
IC405中心部
中央付近の明るい星が「ぎょしゃ座AE」で、その光に照らされたガスがX字状に青白く光っています。ちなみに、この星雲には「vdB 34」というカタログナンバーが振られています。「vdB」はファン・デン・べルグカタログ(van den Bergh catalog)の略で、カナダの天文学者シドニー・ファン・デン・べルグ(Sidney van den Bergh, 1929~)が1966年に発表した反射星雲のカタログです。

驚いたのは、IC405中心部の反射星雲や、IC417周辺の反射星雲(わずかににじんだように見える部分)まで写っていたところ。反射星雲は、恒星からの光をチリなどが反射しているだけなので全般に暗く、また青い色の成分が比較的多いために光害に紛れやすく、都心からは極めて写りにくいのです。ナローバンド主体の撮影(いわゆる「SAO合成」や「AOO合成」など)ではまず写らない対象ですし、通常のカラー撮影が功を奏した形でしょうか。

オリジナル画像

コンポジット&処理前のカラー画像です。うっすらとですが、IC405とIC410の中心部が確認できます。過去にデジカメで撮った時と比べるとだいぶマシです。

こちらはコンポジット&処理前のHα画像です。光害の影響が少なく背景が暗くなっている上、IC417などの姿も確認できます。

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