光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

ばら星雲~Sh2-280, Sh2-282(ばら星雲:散光星雲+散開星団、Sh2-280, Sh2-282:散光星雲、いっかくじゅう座)

撮影日時 2024年12月27, 29日
撮影機材 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm)、ビクセン SXP赤道儀
使用カメラ ZWO ASI2600MC Pro
ガイド鏡 ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)
オートガイダー ZWO ASI120MM
感度・露出時間 -10℃, Gain=100, 露出60秒×120コマ(カラー)+Gain=300, 300秒×66コマ(ナロー)
備考 IDAS LPS-D1 & Optolong L-Ultimate使用

オリオン座のベテルギウス、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオンを結んでできる「冬の大三角」。その内側にある「いっかくじゅう座」は、面積こそ482平方度と、ふたご座(514平方度)並みでそこそこ大きいものの、最も明るい星でも3.76等(いっかくじゅう座β星)と暗い星ばかりで見栄えのしない星座です。しかしながら、この領域には有名な「ばら星雲」をはじめ、写真映えのする天体が複数存在します。

この写真では、「ばら星雲」の南側に点々と広がる散光星雲を広角で捉えました。「ばら星雲」の北側には有名な「クリスマスツリー星団」や散光星雲Sh2-273があり、普通はもっぱらそちらに目が向いてしまうのですが、南側にあるこれらの天体もなかなか魅力的です。

今回は、最近もっぱら行っている、デュアルナローバンドフィルター「L-Ultimate」と伝統的な光害カットフィルターである「LPS-D1」との組み合わせで撮影を行っています。前者で散光星雲を、後者で恒星を撮影する作戦で、東京都心にもかかわらずよく写ったのではないかと思います。

「ばら星雲」は、中心部にある散開星団NGC2244と「花びら」を構成する散光星雲からなる複合天体です。「花びら」にあたる部分は領域ごとにさらにNGC2237, 2238, 2239, 2246と複数のNGCナンバーが振られています。愛称はもちろんその見た目からですが、味方によっては頭蓋骨のようにも見えるため「どくろ星雲」などと呼ばれたりもします(同じく「どくろ星雲」の愛称を持つ、くじら座の惑星状星雲NGC246との混同注意)。個人的には「スターウォーズ」のストームトルーパーに見えます(笑)

これらの領域内には黒い筋や点(「グロビュール」と呼ばれます)が見えますが、これはガスやチリが互いの重力で濃密に集まっている部分で、いわば「星の卵」です。これがさらに成長すると、自身の重力でガスが圧縮され、自ら光を放つ恒星となります。NGC2244の星たちも、同様の過程をたどって「ばら星雲」の中で生まれ、輝きだしたものと考えられています。

ばら星雲の南側2.5度ほどのところにあるSh2-280は、40分ほどの広がりを持つ明るく大きな散光星雲です。日本国内では、ばら星雲と絡めて「ばらのつぼみ星雲」などと呼ぶこともあるようですが、たしかに星雲の明るい部分だけに注目して見ると、南西(右下)方向に向いたバラのつぼみのように見えなくもありません。

この星雲を主に輝かせいているのは、星雲中央付近にあるHD 46573というスペクトルO型の青い星です。この星雲で面白いのは、HD 46573の周りにバブル状の衝撃波面らしきものが見えることで、カシオペヤ座の「バブル星雲」(NGC7635)を彷彿とさせます。詳しく調べた論文などが見つからなかったので詳細は分かりませんが、おそらくHD 46573から噴き出した猛烈な恒星風が星間ガスにぶつかり、このような構造を作っているのでしょう。

その南東側には、小型の散光星雲Sh2-282が。Sh2-280がバラのつぼみなら、こちらはさしずめ「ばらの花びら」といったところでしょうか。ホンダのバイクのロゴマーク↓みたいな形がユニークです。この星雲を輝かせているのは、星雲のすぐ左上に見えている明るい星、HD 47432です。この星もO型スペクトルを持つ青色巨星です。

なお、そのさらに南東側、一番上の写真の左下隅がわずかに明るくなっていますが、これは同じく散光星雲のSh2-284の端の部分がわずかに見えているものです。

ちなみに、天体名を書きこんだのがこちら。

「Cr」で始まるのは、散開星団のカタログである「コリンダー(Collinder)カタログ」のナンバーです。また、中央付近にある「vdB 1」というのは、カナダの天文学者シドニー・ファン・デン・べルグ(Sidney van den Bergh, 1929~)が1957年の論文中で言及した散開星団のひとつ。「vdB」というと、同氏がまとめた反射星雲のカタログの方が圧倒的に有名なので要注意です。

オリジナル画像

LPS-D1フィルターを用いて撮影した、コンポジット&処理前の画像およびレベル調整のみ行った画像です。ばら星雲はさすがの存在感ですが、それ以外の星雲はほとんど分かりません。

こちらはL-Ultimateフィルターを用いて撮影した、コンポジット&処理前の画像およびレベル調整のみ行った画像です。デュアルナローバンドフィルターの効果で、都心の激しい光害の中でも星雲の姿が一気に浮かび上がってきます。

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