光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

M52~バブル星雲 NGC7635~クワガタ星雲 Sh2-157(M52: 散開星団、NGC7635, Sh2-157: 散光星雲、カシオペヤ座~ケフェウス座)

撮影日時 2024年9月6日
撮影機材 ビクセン VSD90SS+レデューサーV0.71x(D90mm, f351mm)、ビクセン SXP赤道儀
使用カメラ ZWO ASI2600MC Pro
ガイド鏡 ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)
オートガイダー ZWO ASI120MM
感度・露出時間 カラー画像その1:Gain100, 60秒×32
カラー画像その2:Gain100, 60秒×32
ナローバンド画像:Gain350, 300秒×51
備考 カラー画像その1:ZWO IRカットフィルター使用
カラー画像その2:ZWO IRカットフィルター&ケンコー・トキナー プロソフトン クリアフィルター使用
ナローバンド画像:Optolong L-Ultimateフィルター使用

カシオペヤ座~ケフェウス座の境界付近に広がる星雲・星団を、「天文リフレクションズ」さんのレビュー企画で貸し出されていたVSD90SSを用いて捉えてみました。

銀河系には若い星がゆるく集まっている「アソシエーション」と呼ばれる構造があり、中でもO型星やB型星と呼ばれる大質量星が多く分布しているものを「OBアソシエーション」と呼びます。この写真に写っている領域は「カシオペヤ座OB2アソシエーション」と呼ばれ、O型星やB型星が放つ強烈なエネルギーが宇宙空間に漂う水素原子や酸素原子を励起することで多くの散光星雲を輝かせています。

この領域には散光星雲が多いので、撮影のベースとしてデュアルナローバンドフィルターであるL-Ultimateフィルターを用いました。撮影に用いたVSD90SS+レデューサーV0.71xは合成F値が3.9と、L-Ultimateの推奨F値であるF4をわずかに下回っているのですが、結果として大きな問題は生じることなく、都心の激しい光害の中でも淡い散光星雲の輝きをしっかり捉えることができました。

一方、デュアルナローバンドフィルターでは恒星の写りが著しく悪くなるため、IRカットフィルターのみを使用した場合と、プロソフトン クリアを使用した場合とを別途撮影しました。ソフトフィルターを用いた方は、星の色こそよく出るものの、フィルターの効果で微光星の存在感が薄くなってしまうため、星の色情報のみ抽出してIRカットフィルターを用いたものと合成しています。ギリギリ恒星の主張が激しすぎない範囲でバランスさせられたのではないでしょうか?

さて、この領域は上にも書いた通り、多くの天体が点在する大変にぎやかな場所です。

まずはM52。メシエカタログに掲載されている大型の散開星団です。1774年9月7日に、シャルル・メシエがモンテーニュ彗星 (C/1774 P1) を観測中に発見したもので、200個ほどの恒星が群れ集まっています。

そのすぐ南東側には、小さく目立たない散開星団Czernik(チェルニク) 43が。さらにその南には、2021年3月に新星爆発を起こしたV1405 Casがあります。一時は5等台まで明るくなったこの星ですが、現在は12.5等近辺ですっかり安定しているようです。

写真中央付近には「バブル星雲」や「しゃぼん玉星雲」の愛称を持つ散光星雲NGC7653が横たわっています。その名の通り、星雲中心部には泡のような構造が見られますが、これを形作っているのは、泡の中に見えるBD+60 2522という8.7等の星です。質量は太陽の44倍、表面温度は37500度、明るさに至っては太陽の約40万倍もあり、生まれてからまだ200万年ほどしか経っていない若い星です。この星が引き起こす激しい恒星風(その速度は時速1800~2500kmにも達します)が星間ガスにぶつかり、その衝撃波が泡構造を形成したものと考えられています。

写真西側(左側)にはHII領域であるSh2-159Sh2-161に加え、ひときわ明るい散光星雲NGC7538が見えます。NGC7538は「北の干潟星雲」という愛称もある明るい散光星雲ですが、言われてみれば、いて座の「干潟星雲」M8にどことなく似ています。

そしてその南には「クワガタ星雲」ことSh2-157が大きく広がっています。この「クワガタ星雲」という愛称は、上に突き出した2本の明るい領域をクワガタムシの牙に見立てたものだと思うのですが、この写真だとさらに淡いところまで写っていて、クワガタというよりむしろ「蟹のツメ盛り合わせ」みたいになっています。実際、海外だと"Lobster Claw Nebula"(ロブスターの爪星雲)という愛称が付けられています。

この散光星雲は、他の星雲と同じく若く活発な星の影響で輝いていますが、特に北半分の「爪」の部分はMarkarian 50*6という星団に属するウォルフ・ライエ星WR 157が主な原因となっています。

また、星雲中心部には特に明るい箇所があり、別個にSh2-157Aとナンバーが振られています。さらにその南西側には、光学的には暗いものの、非常にコンパクトなHII領域Sh2-157Bが電波観測により発見されています。

そして最後に、ちょっと面白い小天体を。バブル星雲の南東側にあるKjPn 8がそれ。1971年にカザリアン(M.A. Kazaryan)とパルサミアン(Eh. S. Parsamyan)によって発見された惑星状星雲です。よく見ると、中心から離れたところに対象に弓状の構造(矢印)がありますが、これは噴き出したジェットによる衝撃波を表しています。

詳細な写真観測では、この衝撃波面を含めガスがフィラメント状に広がっていて、その大きさは14分角×4分角……実サイズで約4.1×1.2パーセクにも達します。惑星状星雲に関連するものとしては最大級の構造です。ちなみに、中心の惑星状星雲本体直径約0.2パーセクしかありません。おそらく写真でオレンジ色に写っている点(直交線でマーク)がそれでしょう。

この星雲はサイズも異例ですが、その構成も異例で、お互いにほぼ同等の質量を持った連星が同時に進化し、ほぼ同時に惑星状星雲形成段階に入ったものだと考えられています。ほぼ同環境に同サイズの恒星なら、生物で言えばクローンみたいなものですから同じタイミングで進化してもおかしくないですが……なんとも不思議なものです。

オリジナル画像

IRカットフィルターのみを用いて撮影した、コンポジット&処理前の画像およびレベル調整のみ行った画像です。下で示すL-Ultimateを用いて撮影したものと比べると、写っている星の数が明らかに多いです。

プロソフトン クリアフィルターを用いて撮影した、コンポジット&処理前の画像およびレベル調整のみ行った画像です。ソフトフィルターの効果により、輝星の色と存在感がよりハッキリしてきます。

L-Ultimateフィルターを用いて撮影した、コンポジット&処理前の画像およびレベル調整のみ行った画像です。バブル星雲などの明るい散光星雲については、強調前からその存在がよく分かります。

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