皆既月食 2022年11月8日
2022年11月8日、2021年5月26日以来1年半ぶりとなる皆既月食が全国で見られました。もっとも、2021年5月26日は悪天候で全く見られず、東京で皆既月食の全過程が見られるのはさらにその前、2018年1月31日にまでさかのぼります。
おまけに今回は、皆既月食の最中に天王星食も同時に起こりました。皆既月食と惑星食が同時に起こるのは、日本に限れば実に442年前の1580年7月26日の土星食以来のこと。ちなみに、次は322年後の2344年7月26日の土星食です。
月食の始まり
撮影日時 | 2022年11月8日18時10分 |
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撮影機材 | ビクセンED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm)、ビクセンSXD赤道儀 |
使用カメラ | Canon EOS Kiss X5 |
感度・露出時間 | ISO100、1/250秒 |
ちょうど欠け始めの頃の月の写真です。
月が陰っているのは地球の影が月に落ちているせいですが、この地球の影には「本影」と「半影」とがあります。本影は地球が太陽の光を完全に遮っている部分で、月面からは皆既日食が見えているはずの部分です。一方の半影は太陽の光が部分的に遮られている部分で、月面からは地球による部分日食が見えているはずの部分になります。上の写真は本影食が始まったばかりの写真(本影食の開始は18時9分の予報)ですが、すでに大きく欠けているかのように見えます。
月食の場合、大気のある地球が月に影を落とすため、大気が光を拡散して影の境目は常にぼやけます。そのため本影と半影の境目もはっきりしません。ちなみにこの理由のため、日食が秒単位で正確に開始時刻、終了時刻が予報できるのに対し、月食では分単位の予報にとどまります。影の境目がハッキリしないうえ、影自体の大きさも大気層の膨張・収縮によって変動するためです。
ターコイズフリンジ
撮影日時 | 2022年11月8日19時15分 |
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撮影機材 | ビクセンED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm)、ビクセンSXD赤道儀 |
使用カメラ | Canon EOS Kiss X5 |
感度・露出時間 | ISO1600、1/2秒 |
欠けていく途中で長時間露出を行い、色彩を強調してみると、欠け際がやや青味がかっているのが分かります。これが最近すっかり有名になった「ターコイズフリンジ」。太陽光が成層圏のオゾン層を通過する際、赤い光が吸収されて青い光だけが残り、この光が直進して月面に影を落とす現象です。2007年5月4日にドイツで見られた皆既月食時の青色の光について、2008年にNASAが言及してから広まった言葉だといわれています。
銀塩写真のころにはほとんど知られていなかった現象で、かつては眼の錯覚やデジカメの画像処理などを原因とする人為的なものではないかと疑われていたこともありましたが、現在では実際に起こっている現象として広く認識されています。
撮影日時 | 2022年11月8日19時20分 |
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撮影機材 | ビクセンED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm)、ビクセンSXD赤道儀 |
使用カメラ | Canon EOS Kiss X5 |
感度・露出時間 | ISO1600、1/2秒 |
明るい部分からの色にじみではないかという説もありますが、上の写真のように皆既に入った後でも青い色の成分が見えていることから、やはり実際の現象だろうと思います。
食の最大
撮影日時 | 2022年11月8日20時00分 |
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撮影機材 | ビクセンED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm)、ビクセンSXD赤道儀 |
使用カメラ | Canon EOS Kiss X5 |
感度・露出時間 | ISO1600、1秒 |
食の開始から1時間あまりで「食の最大」となりました。
皆既中の月の色や明るさは地球の大気の状態などに左右され、月食ごとに異なります。これを表すものとして、フランスの天文学者ダンジョンが提唱した「ダンジョン・スケール」があります。
月面の様子 | |
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0 | 非情に暗い食。 月のとりわけ中心部は、ほぼ見えない。 |
1 | 灰色か褐色がかった暗い食。 月の細部を判別するのは難しい。 |
2 | 赤もしくは赤茶けた暗い食。 たいていの場合、影の中心に一つの非常に暗い斑点を伴う。外縁部は非常に明るい。 |
3 | 赤いレンガ色の食。 影は多くの場合、非常に明るいグレーもしくは黄色の部位によって縁取りされている。 |
4 | 赤銅色かオレンジ色の非常に明るい食。 外縁部は青みがかって大変明るい。 |
この基準からすると、今回は「やや1寄りの2」くらいだったように思います。
2018年1月31日の皆既月食時の写真と比較すると、今回の月食の方が明らかに鮮やかさに欠け、明るさもわずかに暗いように感じます。月食の明るさが変わる要因としてよく知られているのは火山の大噴火です。噴火で噴煙が成層圏にまで巻き上げられると、火山灰や、火山ガスから生成されるエアロゾルが大気中に長くとどまり、太陽の光を遮る効果を発揮します。皆既中は地球大気を通り抜けてきた太陽光によって月が照らされていますから、この光が減れば自ずと皆既中の明るさも暗くなります。
過去を紐解いてみると、先に挙げたダンジョンの論文中の記述によれば、1883年のクラカタウ(インドネシア)の噴火の影響で1884年10月4日の皆既月食はかなり暗かったようですし、1982年12月30日の皆既月食は1982年3~4月に起こったエルチチョン(メキシコ)の噴火の影響で。ほぼ真っ暗でした。1993年6月4日の皆既月食も、1991年6月のピナトゥボ山(フィリピン)の噴火の影響が残っていて、ダンジョンスケールで「1」相当の暗さでした。
一方、今回は2022年の1月にフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ(トンガ)で大噴火がありました。この噴火は、火山爆発指数(VEI)で言うとVEI-5に相当し、これは1982年のエルチチョンと同レベルです。しかし、フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイの噴火は、光を散乱させるエアロゾルとなる二酸化硫黄の噴出量が、ピナトゥボ山噴火の1/40~1/50程度しかなかったと言われており、そのためにエルチチョンの時ほど暗くならなかったのでしょう。
天王星食
前記のように、今回の皆既月食では皆既中に天王星食が起こりました。そこで、潜入・出現(皆既後)の過程をSky-WatcherのMAK127SPおよびZWO ASI290MCを用い、動画で捉えてみました。この動画では、分かりやすいように4倍速で再生しています。なお、記録された時刻では、天王星が月に接する「第1接触」が20時40分36秒ごろ、天王星が完全に月に隠れる「第2接触」が20時40分54秒ごろ、天王星が月から出始める「第3接触」は21時22分11秒、完全に出切る「第4接触」が21時22分27秒でした。ただし、時刻はネットから切り離されたPCでの読み値なので、ずれている可能性は十分あります。
月食の終わり
撮影日時 | 2022年11月8日21時50分 |
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撮影機材 | ビクセンED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm)、ビクセンSXD赤道儀 |
使用カメラ | Canon EOS Kiss X5 |
感度・露出時間 | ISO100、1/250秒 |
本影食が終わったばかりの月の写真です。
今回の月食は本影食の時間だけで3時間40分、皆既食の時間だけでも1時間25分の長丁場でしたが、天王星食をはじめ見どころも多く、非常に楽しむことができました。