光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

皆既月食 2018年1月31日

2018年1月31日、2015年4月4日以来3年ぶりとなる皆既月食が全国で見られました。もっとも、前回の2015年4月4日は悪天候で全く見られず、前々回の2014年10月8日も欠け始めの30〜40分ほどで厚い雲に阻まれ、皆既月食のハイライトである「赤い月」を見ることはできませんでした。東京で皆既月食の全過程が見られるのは、さらにその前、2011年12月10日にまでさかのぼります。

月食の始まり

撮影日時 2018年1月31日20時48分
撮影機材 ビクセンED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm)、ビクセンSXD赤道儀
使用カメラ Canon EOS Kiss X5
感度・露出時間 ISO200、1/500秒

ちょうど欠け始めの頃の月の写真です。

月が陰っているのは地球の影が月に落ちているせいですが、この地球の影には「本影」と「半影」とがあります。本影は地球が太陽の光を完全に遮っている部分で、月面からは皆既日食が見えているはずの部分です。一方の半影は太陽の光が部分的に遮られている部分で、月面からは地球による部分日食が見えているはずの部分になります。上の写真は、厳密にはまだ本影はかかっていないはずの時間(本影食の開始は20時49分の予報)ですが、すでにかなり暗くなっています。

月食の場合、大気のある地球が月に影を落とすため、大気が光を拡散して影の境目は常にぼやけます。そのため本影と半影の境目もはっきりせず、本影食が始まっていないはずの時刻でも欠け始めているように見えるのです。ちなみにこの理由のため、日食が秒単位で正確に開始時刻、終了時刻が予報できるのに対し、月食では分単位の予報にとどまります。影の境目がハッキリしないうえ、影自体の大きさも大気層の膨張・収縮によって変動するためです。

ターコイズフリンジ

撮影日時 2018年1月31日21時48分
撮影機材 ビクセンED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm)、ビクセンSXD赤道儀
使用カメラ Canon EOS Kiss X5
感度・露出時間 ISO200、2秒

欠けていく途中で長時間露出を行い、色彩を強調してみると、欠け際がやや青味がかっているのが分かります。これが最近すっかり有名になった「ターコイズフリンジ」。太陽光が成層圏のオゾン層を通過する際、赤い光が吸収されて青い光だけが残り、この光が直進して月面に影を落とす現象です。2007年5月4日にドイツで見られた皆既月食時の青色の光について、2008年にNASAが言及してから広まった言葉だといわれています。

銀塩写真のころにはほとんど知られていなかった現象で、かつては眼の錯覚やデジカメの画像処理などを原因とする人為的なものではないかと疑われていたこともありましたが、現在では実際に起こっている現象として広く認識されています。ターコイズフリンジのスペクトルも取られていて、それを見ると青い色の成分が確かに多くなっています。

食の最大

撮影日時 2018年1月31日22時30分
撮影機材 ビクセンED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm)、ビクセンSXD赤道儀
使用カメラ Canon EOS Kiss X5
感度・露出時間 ISO200、4秒

食の開始から1時間あまりで「食の最大」となりました。

皆既中の月の色や明るさは地球の大気の状態などに左右され、月食ごとに異なります。これを表すものとして、フランスの天文学者ダンジョンが提唱した「ダンジョン・スケール」があります。

尺度月面の様子
0非情に暗い食。
月のとりわけ中心部は、ほぼ見えない。
1灰色か褐色がかった暗い食。
月の細部を判別するのは難しい。
2赤もしくは赤茶けた暗い食。
たいていの場合、影の中心に一つの非常に暗い斑点を伴う。外縁部は非常に明るい。
3赤いレンガ色の食。
影は多くの場合、非常に明るいグレーもしくは黄色の部位によって縁取りされている。
4赤銅色かオレンジ色の非常に明るい食。
外縁部は青みがかって大変明るい。

この基準からすると、今回は2くらいだったように思います。1月、フィリピンのマヨン山でそこそこ大きな噴火があったので、もしかするとその影響が出るかも……と思っていたのですが、噴煙の達した高度が数千メートル程度という報道もあり、影響が出るほどではなかったようです。

このあと、徐々に月は元の姿に戻っていきましたが、それに合わせるかのように空に雲が増えだし、観測が困難になっていきました。それでも、全経過のほぼ最後まで見届けることができました。

月食の全経過

今回の皆既月食の写真、前後のコマを組み合わせて連続写真にしてみました。

完全な対称にはなっていませんが、それでも、なんとなく地球の丸い影が分かります。最後の1コマが雲に阻まれて撮れなかったのは残念ですが、月が地球の影を横切っていく雰囲気は出せたかと思います。

月の位置合わせには、ステラナビゲータの表示を利用。本影に対する各時刻での月の位置を表示して画像として保存し、これを下敷きにして月の写真を配置しています。

デジカメでの撮影が普通の今なら、こうやって簡単に合成できますが、銀塩写真の頃はフィルムを巻き上げずに撮影し続ける「多重露出」をしなければならず、一発勝負なのも相まってかなり困難な撮影でした。しかも、恒星時で動く赤道儀で普通に撮ったのでは、地球の影は楕円形に写ってしまいます。これは観測者が地球の表面にいるため、地球の自転とともに月を見る角度が変わる……いわゆる視差が発生してしまうためで、影を真円になるように撮ろうとすると、赤道儀の動作に微妙な補正をかけながら撮影しなければなりませんでした。これができると「天文ガイド」のフォトコンで最優秀賞が取れるレベル……というと、困難さのほどが分かるでしょうか?

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