光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

M78(散光星雲、オリオン座)

撮影日時 2023年12月17日
撮影機材 ED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHD(D103mm, f624mm)、ビクセン SXP赤道儀
使用カメラ ZWO ASI2600MC Pro
ガイド鏡 ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)
オートガイダー ZWO ASI120MM
感度・露出時間 -20℃, Gain=100, 露出300秒×42コマ(カラー)+Gain=350, 300秒×16コマ(ナロー)
備考 IDAS LPS-D1 & Optolong L-Ultimate使用

オリオン座にある、明るい反射星雲です。「反射星雲」は文字通り、星間ガスが星の光を反射して輝いている(いわゆる「散光星雲」(輝線星雲)は星の光のエネルギーで星間ガスが電離し、ガス自体がネオンサインのように輝いているもので、反射星雲とは根本的に輝く原理が違います)もので、M45(プレアデス星団、すばる)周辺の「メローペ星雲」などが有名です。そうした反射星雲の中でも、M78は最も明るいものになります。

もっとも、「明るい」といっても反射星雲は星の光を反射しているだけなので、赤く輝く散光星雲と違い、特徴的な色があるわけではありません。そのため光害カットフィルターの効きも悪く、光害溢れる都心からの撮影はなかなか困難です。実際、M78は過去にもデジカメでチャレンジしたことがありますが、あまりまともな写りにはなりませんでした。

そこで今回は冷却CMOSを用い、たっぷり露出を与えることでM78のみならず、その周辺に漂う暗黒星雲(輝いていない星間ガス)を表現することを狙いました。また、M78と近接した位置には散光星雲であるバーナードループがあるので、これを表現するために通常の光害カットフィルターであるLPS-D1だけでなく、ワンショットナローバンドフィルターである「L-Ultimate」も併用しています。

「光害カットフィルター」と「ワンショットナローバンドフィルター」の特性の違いは、撮ってみると一目瞭然。同程度のレベルに調整したワンショットを比較すると、「光害カットフィルター」で撮った方(左)はバーナードループがあまりはっきりしない一方、「ワンショットナローバンドフィルター」(右)ではM78本体があまり写っていない上、星の数も明らかに減っています。最近人気の「ワンショットナローバンドフィルター」ですが、明確に得手不得手があるのは理解しておくべきかと思います。

ともあれ、こうして撮影した画像を合わせて仕上げたのが上の写真です。こうやって見てみると、反射星雲と散光星雲、暗黒星雲が入り乱れて、実に美しい領域です。深夜でも3等すら怪しい東京都心で、よくぞここまでカラフルに写ってくれたものだと思います。

しかし……ほぼ全面に渡って分子雲が広がっているせいで、フラット補正の際に「本当にフラットになったのか?」の判別が困難だったのには参りました。色々と弄ってはみたものの、やればやるほど正解が分からなくなって、テキトーなところで諦めてしまったのが正直なところです。

写真中央にはウルトラマンの故郷「光の国」の所在地として有名なM78がありますが、その実態は二重星であるHD 38563によって周辺の星間ガス(分子雲)が照らされているものです。実のところ、ウルトラマンの「M78星雲」は「M87」(おとめ座の系外銀河)の誤植で、実際のM78は宇宙人の住めるような環境ではなさそうなのですが、光輝いている様子はいかにも「光の国」という感じで個人的には好きだったりします

M78周辺には、上の写真のようにナンバリングされた複数の星雲がありますが、その実態は、ひとつながりの分子雲の所々を星々が照らしているものです。

また、M78の南西には"McNeil's Nebula"と呼ばれる星雲が「ありました」。2004年1月23日、アメリカのアマチュア天文家Jay McNeilはM78近傍に、これまで記録のなかった新たな反射星雲を発見しました*3。記録をさかのぼって調べてみると、1966年10月には撮影されていたものの、それ以外の時期には記録されていませんでした。さらに調べると、この星雲はV1647 Oriという変光星によって照らされた反射星雲であることが明らかとなり、星雲が見えたり消えたりするのは、この星の変光のためだろうと考えられるようになりました。

ところが、2018年になると星雲はすっかり姿を消してしまい、それ以降は観測されていません。この写真でもその姿は全く見えませんが、いずれまた見える日が来るのでしょうか……?

オリジナル画像

LPS-D1フィルターを用いて撮影した、コンポジット&処理前の画像およびレベル調整のみ行った画像です。上でも書きましたが、M78の存在はよく分かる一方、左上のバーナードループははっきりしません。

こちらはL-Ultimateフィルターを用いて撮影した、コンポジット&処理前の画像およびレベル調整のみ行った画像です。こちらではバーナードループが目立つ一方、連続スペクトルで輝くM78や恒星の存在は分かりにくくなっています。

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