光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

ハート星雲 Sh2-190 & 胎児星雲 Sh2-199(散光星雲、カシオペヤ座)

撮影日時 2023年10月13日
撮影機材 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm)、ビクセン SXP赤道儀
使用カメラ ZWO ASI2600MC Pro
ガイド鏡 ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)
オートガイダー ZWO ASI120MM
感度・露出時間 0℃, Gain=100, 露出180秒×18コマ(カラー)+Gain=300, 300秒×46コマ(ナロー)
備考 IDAS LPS-D1 & Optolong L-Ultimate使用

カシオペヤ座にある大型の散光星雲です。西側(写真右側)にあるのがSh2-190、東側にあるのがSh2-199で、その形からそれぞれ「ハート星雲」、「胎児星雲」という愛称がつけられています。ちなみに海外では、Sh2-190の方は「Heart nebula」と同じですが、Sh2-199はHeartと対になる意味で「Soul nebula」と呼ばれています(2つ合わせて「Heart & Sowl nebulae」)。

自分も勘違いしていたのですが、これらの星雲はしばしばIC1805およびIC1848として知られています。しかし正確には、これらのナンバーは各星雲の中心に存在する散開星団に与えられたものです(下図参照)。

ハート星雲 & 胎児星雲周辺の星雲・星団
ピンクが散光星雲、紫が散開星団を表します。「Cr」はコリンダーカタログに収録されている散開星団です。

ちなみに、この領域にある散開星団としてはNGC 1027が目立ちますが、7500光年ほど彼方にあるハート星雲&胎児星雲に対し、我々から3100光年ほどとはるかに近い位置にあり、両星雲とは物理的な関係は全くありません。遠近感が感じられて面白いところです。

さて、これらの散光星雲はいずれも、散開星団にある若く高温の星(O型主系列星)からの強烈な紫外線により、ガスが電離されて輝いています。ハート星雲の場合はIC 1805、胎児星雲の場合はIC 1848およびCollinder 33, 34に属する星が輝きの原因となっています。

もう少し細かく見てみると、ハート星雲の輝きの元となっている恒星の中で、特に大きな役割を担っていると考えられるのが、IC1805内にあるHD 15570、HD 15629、HD 15558の3つ。いずれも「O型主系列星」と呼ばれる、生まれて間もない超高温の星たちです。質量も巨大で、HD 15570は太陽の70倍*3、HD 15629は61倍もあります。HD 15558は連星で、主星の質量は太陽の150倍ほどもあると見積もられていますが、恒星の物理的限界から考えて主星自身も連星だろうと考えられています

一方、胎児星雲を輝かせる上で大きな役割を果たしているのは、IC1848内にあるHD 17505です。これは複数の「O型主系列星」からなる多重星系で、その総質量は太陽の100倍ほどにも達します。

胎児星雲の「頭」の方を輝かせている星として重要なのは、Collinder 34内にあるHD 18326。こちらも「O型主系列星」を含む連星系です。

また、上の写真を見ると分かりますが、恒星風によって星雲内のガスやチリが吹き払われることで「わし星雲」M16にある「創造の柱」のような構造があちこちにできています。こうした場所の中で新しい星がまた生まれてくるわけです。

また、この写野内には他にも興味深い天体がいくつか写っています。

まずは「マフェイ 1」(Maffei 1)という系外銀河です。私たちの銀河系が属している「局部銀河群」から最も近い銀河群である「マフェイ銀河群」に属している巨大な楕円銀河で、地球からの距離は約1000万光年ほどと見積もられています。

この系外銀河は1967年、イタリアの天文学者パオロ・マフェイによって、赤外線フィルムを用いて発見されたもので、意外と最近のことです。というのも、この銀河の位置が、ちょうど銀河系内でチリの密度が最も濃い天の川と重なっていたため、チリによって明るさが大きく減じていた上、色も赤みがかっていて*7、当時星図作成によく使われていた青色に感度の高いフィルムにはほとんど写らなかったのです。

この減光のため、マフェイ 1の明るさは4.7等も暗くなっている上、視直径も小さく見えてしまっています。もしチリによって隠されていなければ、少なくとも北天で10本の指に入る程度には大きく見える系外銀河だったはずです。

こちらは「マフェイ 2」(Maffei 2)。マフェイ 1と同じく「マフェイ銀河群」に属する渦巻銀河です。地球からの距離はマフェイ 1と同程度。この銀河も、銀河系内のチリによって可視光の実に99.5%が遮断されていて、可視光ではほとんど検出されませんでした。

ちなみに、マフェイ 1、2ともに、シャープレスによって「銀河系内のHII領域」と誤解され、それぞれSh2-191、Sh2-197とナンバーが振られていたりします。

そしてもう1つ、ハート星雲の「お尻」のあたりにあるのが惑星状星雲「WeBo 1」です。「PN G135.6+01.0」としても知られるこの天体が見つかったのは、なんと1996年と本当につい最近のことです。B等級で16.25等、V等級で14.45等と決して明るくない上に小さいのは確かなのですが、有名な宙域にある割に、ずっと見落とされていたのは意外な感じがします。地球からの距離は約5200光年ほど。中心星を取り巻くように広がる薄いリング状のガスを、斜めから見下ろすような形になっています。こういうのをアップで狙ってみるのも面白いかもしれません。

各小天体の位置

さて今回の写真ですが、これも最近の撮影と同様「ワンショットナローバンドフィルター+光害カットフィルター」の組み合わせで撮影しています。これらの星雲は知名度の割に淡く、フィルターを駆使してもデジカメでの撮影にはおのずと限界があったのですが、冷却CMOSカメラかつしっかりと露出時間を確保したことで、星雲のかなり淡いところまでよく写ってくれました。東京都心でここまで写ってくれれば満足です。

オリジナル画像

LPS-D1フィルターを用いて撮影した、コンポジット&処理前の画像およびレベル調整のみ行った画像です。星雲本体はかなり淡く、ハート星雲の先端など特に明るい部分を除けば、強調してもかろうじて見えるかどうかという程度です。

こちらはL-Ultimateフィルターを用いて撮影した、コンポジット&処理前の画像およびレベル調整のみ行った画像です。軽く強調しただけで、星雲の特徴的な姿が分かるようになってきました。

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