光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

ウィザード星雲 Sh2-142(散光星雲、ケフェウス座)

撮影日時 2023年8月19日
撮影機材 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm)、ビクセン SXP赤道儀
使用カメラ ZWO ASI2600MC Pro
ガイド鏡 ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)
オートガイダー ZWO ASI120MM
感度・露出時間 0℃, Gain=100, 露出180秒×16コマ(カラー)+Gain=300, 300秒×64コマ(ナロー)
備考 IDAS LPS-D1 & Optolong L-Ultimate使用

ケフェウス座にある小型の散光星雲です。名前の「Sh2」は、アメリカの天文学者スチュワート・シャープレス(Stewart Sharpless, 1926~2013)が作製した銀河系内のHII領域のカタログ(正確には第二版)を示していて、Sh2-142の場合、「シャープレス142」と読むのが普通です。

Sh2-142の位置
Sh2-142の位置(ステラナビゲータ12を用いて作成)

カシオペヤ座やとかげ座との境界に近いこの付近には散光星雲や散開星団が数多く散らばっていますが、これは「ケフェウス座OB1アソシエーション」と呼ばれる若い星の大集団です。星が生まれて間もないため、星の原料となるチリやガスが豊富で、また寿命の短い大質量星が放つ光により、これらのガスが電離して散光星雲として見えています。

このSh2-142も、近くにある「ケフェウス座DH星」というO型主系列星同士の連星、および「HD 215806」という同じくO型主系列星からの強烈なエネルギーによってガスが電離し、輝いています。また、これらの星からの恒星風がガスやチリを吹き払って圧縮し、暗黒星雲中で新しい星を生み出す源になっています。

Sh2-142のすぐ南東(左下)にも淡い散光星雲が見えますが、こちらはSh2-143。同じくO型主系列星である「LS III +57 93」からのエネルギーで輝いているものです。

上の解説図で、Sh2-142と重なる形でNGC7380という天体がありますが、こちらは有名なウィリアム・ハーシェルの妹、カロライン・ハーシェルが1787年に発見した散開星団です。

冒頭の写真だと散光星雲の光に隠れて分かりにくいですが、通常の光害カットフィルターのみを用いたこの写真では、中央の散開星団がよく分かります。人間の目には、散光星雲の赤い光はあまり感じないので、1787年当時はただの星の集まりのように見えたはずです(多少、星雲っぽい光芒は見えたかもしれませんが)。

ちなみにこのSh2-142、特に海外では"Wizard nebula"(魔法使い星雲)という愛称がついています。「なぜ『魔法使い』か分からない」という声をしばしば耳にするのですが、多分こういうことかと。

三角帽子と言い、ローブがたなびく様子と言い、まさに魔法使いとしか言いようのない形です。ケフェウス座DH星が、魔法の杖の先端に当たる位置にあるのも実に良くできていると思います。

一方、国内では「ほうおう星雲」という愛称もあるようですが、こちらはおそらく、写真を回転させてこう。

これはこれで、トサカや羽を広げた様子など、鳳凰に見えないこともありません。とはいえ、造形の見事さから言えば「魔法使い」の方に軍配が上がりそうです。

さて、今回の撮影についてですが、最近よく行っている「ワンショットナローバンドフィルター+光害カットフィルター」の組み合わせで撮影しています。散光星雲についてはワンショットナローバンドフィルターであるL-Ultimateを用い、恒星および反射星雲については一般的な光害カットフィルターに任せるという方法です。L-Ultimateで撮っただけだと恒星の存在感がなくなりすぎて、猛烈に「ナローバンドくさい」不自然な絵になりがちなのですが、そこをうまく補えたかと思います。

また、散光星雲の表現にも気を使いました。L-Ultimateのようなフィルターで撮影した散光星雲を、何も考えずに処理すると赤一辺倒ののっぺりした絵になりがちですが、青や緑の成分も適度に強調することで複雑な色合いを表現できました。実際、この星雲の場合、ケフェウス座DH星の北側付近には青緑色に輝くOIIIの成分が多く、それを反映した色合いになってくれたように思います。

オリジナル画像

LPS-D1フィルターを用いて撮影した、コンポジット&処理前の画像およびレベル調整のみ行った画像です。星雲自体は比較的明るいので、レベル調整をすれば存在は比較的簡単に浮かび上がってきます。

こちらはL-Ultimateフィルターを用いて撮影した、コンポジット&処理前の画像およびレベル調整のみ行った画像です。星雲の写りはさすがですが、恒星の存在感がLPS-D1を使ったものに比べて明らかに薄いです。ナローバンド系フィルターの明確な弱点の1つです。

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