光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

モザイク合成による月齢20の月

撮影日時 2023年11月4日
撮影機材 セレストロン EdgeHD800(D203mm, f2032mm)、ビクセンSXP赤道儀
使用カメラ モノクロ:ZWO ASI290MM
カラー:EOS KissX5
露出時間 モノクロ:Gain=0, 10ms, 約15秒, 30fps
カラー:ISO100, 1/25秒×32コマ
その他 モノクロ:約1230フレームをAviStack2でスタック、ウェーブレット処理後、Image Composite Editorでモザイク合成
カラー:32コマをコンポジット
得られたモノクロ、カラーの画像をステライメージ9でLRGB合成

複数のショットを繋ぎ合わせる「モザイク合成」の手法で、月齢20の月を狙ってみました。

正確には、モザイク撮影したのはモノクロ画像(L画像)のみで、カラー画像(RGB画像)についてはデジカメに任せ、最後にLRGB合成して仕上げています。というのも、「輝度の変化には敏感だが色の変化には鈍感」という人間の目の特性上、色情報については解像度があまり必要ないためです。モノクロ画像の撮影については、シーイングの影響軽減のために赤外線フィルターを用いる予定だったのですが、うっかり忘れてノーフィルターでの撮影になってしまっています。しかし、出来上がってみると悪影響はそれほどなかったようです。

こうして撮れたのが上の写真。ここには、ページレイアウトの問題や盗用を防ぐ意味で縮小したものしか載せていませんが、元画像は9000×6000ピクセルにもなる巨大なもの。非常に細かい部分まで写っているので、いつまで眺めていても飽きることがありません。

以下に、いくつか有名な地形の部分を、縮小前の画像から切り出したものを掲載します。かなり細かいところまで写っているのがよく分かると思います。

コペルニクス

月面で最も目立つクレーターの1つです。直径は93kmもあり、内側に東京都がすっぽり収まってしまいます。クレーターの深さは3760mと、富士山に匹敵するほどの高さですが、直径との比率で考えるとかなり平べったいのが分かります。

クレーターができたのはおよそ8億年前と言われていて、月面のクレーターの中ではかなり新しい方です。原因となった隕石の衝突により物質は四方八方に飛び散り、その痕跡がクレーターのずっと遠くにまで光条として見えています。また、クレーターの近くにはもっと大きな破砕物が落下して、いわゆる「2次クレーター」を形成しています。

ゲイリュサックAとファウト、ファウトAがそれで、特にファウト、ファウトAは達磨のような不思議な形をしています。他の放出物の影響を受けていないように見えることから、おそらく物質の放出がある程度収まってから、2つの岩塊がほぼ同時に落下してきたのではないかと思われます。

アリスタルコス周辺

アリスタルコスは月面で最も明るく輝くクレーターの1つです。これは、できたのが約4億5000万年前と若く、むき出しにされた岩石が宇宙風化の影響をまだあまり受けていないためです。

アリスタルコスが位置する「アリスタルコス台地」は火山性の地形で、約200km四方の菱形をしています。周囲からの高さは2kmほど。色彩を強調した写真では、地質の違いがよく分かります。

台地中央には、曲がりくねった「シュレーター谷」が存在します。全長160km、幅6kmという巨大な谷で、その曲がりくねった様子から、かつては「水が流れた跡なのでは?」と言われたこともありました。現在では、溶岩流によって形成された「溶岩トンネル」が崩落した跡だと考えられています。

中南部の高地

このあたりはクレーターが多く、眺めているだけでも楽しい領域です。

パッと見て目立つのはバートの東にある「直線壁」。月に谷は数多くありますが、このように片側だけが落ち込んだ地形は意外と少ないです。その正体は断層で、西側に溶岩が厚くたまったため沈下を起こしたものと考えられています。高さは300mほどあり、非常に急峻な崖のように見えますが、実は斜度は7度ほどしかなく、想像以上に緩やかなものです。

画面中央には直径100kmクラスのクレーターが並んでいて壮観です。特に、アルザッケルやウェルナーの縁にある段丘などは、いつまでも眺めていられます(笑)

プールバッハ、ブランキヌス、ラカイユの3つのクレーターに挟まれた部分は、上弦の頃に「月面X」として見えることで有名です。こうやって見ると、「X」の正体がクレーターの縁であることが一目瞭然です。

左下には直径235kmにもおよぶ巨大なクレーター、デランドルが横たわっています。月の表側にあるクレーターとしては、バイイ(直径303km)に次ぐ大きさを誇りますが、古いクレーターのため劣化が激しく、1948年にIAUによって「デランドル」という名前が承認されるまではそもそもクレーターとして認識されていませんでした。当時は内側にあるヘルというクレーターにちなんで「ヘル平原」と呼ばれていました。

一方、写真の上の方に目を転じると、矢印で示したところに引っかき傷のような谷間が見えます。これは「雨の海」(「うさぎ」の胴体に相当する部分)が形成された時の巨大隕石の衝突によって飛び散った岩塊によるものです。

アルペトラギウスは、写真内の巨大クレーターと比べると控えめな大きさですが、その割に非常に大きな中央丘を持っています。クレーターの成因はそのほとんどが隕石の衝突によるものと考えられていますが、このアルペトラギウスの中央丘については火山噴火の結果である可能性があります。

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