光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

星雲・星団の撮影

追尾 する
撮影機材 一眼レフ
撮影方法 通常撮影/直焦点撮影
難易度 中~高

色鮮やかな星雲・星団の写真は天体写真の花形とも言えます。雑誌や図鑑にはアンドロメダ大星雲(M31)やオリオン大星雲(M42)をはじめ、様々な星雲の写真が載っていて、「自分にもこんな写真が撮れたらなぁ」と憧れる人も多いのではないでしょうか。

こういう写真は山奥など空の暗いところで撮るのが普通で、街なかではとても無理と思いがちですが、最近のデジタル機器の進歩もあって、被写体によっては都心であっても一昔前の銀塩写真と同じ程度には撮ることができたりします。都心の光害の中では、たとえ望遠鏡を使っても淡い星雲を目で捉えるのは至難の業ですが、写真であれば結構写るものも少なくなく「地上の光にかき消されていたとしても星は確かにそこにあって輝いているのだ」と実感できるのは醍醐味といえます。

ここではまず、必要最低限の装備で星雲、星団を撮る方法をご紹介します。より本格的な撮影をしてみようという方は「ガイド撮影」の項をご覧ください。

撮影に最低限必要なもの

一般的に言って、星雲・星団の撮影は天体写真の中でも難しい部類に入ります。技術的な面もそうですし、必要な装置などが多いという意味でも結構大変です。もし雑誌のコンテストに入選しようというレベルになるとその傾向はさらに顕著で、機材だけで数百万円かけている人もざらにいるという、まさに常軌を逸した世界になります。

しかし、ぜいたくを言わなければ、そこまで無茶な金のかけ方をする必要はありません。とはいえ、最低限必要なものがあるのも事実で、全部新規にそろえようと思えば、最低でも30~40万円台の出費は覚悟しておいた方がいいかと思います。

赤道儀とモータードライブ

星を追尾するための赤道儀とモータードライブは必須です。感度の低い銀塩フィルムが使われていたころは、同架した別の望遠鏡(ガイド鏡)で星の動きを目で見て監視しながら、自分の手で赤道儀の微動ノブを回して追尾する(手動ガイド)ということも行われていましたが、感度の高い現在の機材ではわずかなズレが即、星像の流れとして写ってしまうので非現実的です。

もし赤道儀を新規に買う場合は、予算の範囲内でなるべくガッシリしたものを選びましょう。初心者をターゲットにした低価格赤道儀は強度が不足していることがしばしばあり、ちょっとした風や振動でグラグラ揺れてしまいます。これでまともな写真を撮ろうとすると、かなりの経験とテクニックを要求されるという、いささか本末転倒なことに……。写真を目的にするなら、架台にこそしっかりお金をかけるべきです。

なお、自動導入装置は必須ではありませんが、街なかで星雲・星団を撮ろうとした場合、(光害で)見えない目標の導入が困難なのは確かなので、あると便利です。

一方、すでに赤道儀を持っているのであれば、まずはそれを使ってみましょう。

望遠鏡

これも、まずは手持ちの望遠鏡を使ってみましょう。初心者向け低価格品の一部を除き、たいていは一眼レフを取り付けられるようになっています。もし新規に買う場合は、屈折式ならアポクロマートを手に入れたいところ。ちょっと高いですが、特にデジタル写真では色収差が目立つので、アクロマートではすぐに不満を感じるようになるかと思います。

しかし、それよりなにより、望遠鏡をカメラレンズ代わりに用いる直焦点撮影では焦点距離に配る必要があります。星雲や星団の見かけの大きさは、月の直径より大きく広がっているものから惑星より小さいサイズまでまちまちです。ここで焦点距離の選択を誤ると、目的の天体が画角からはみ出したり、逆に極端に迫力不足の写真になってしまいます。

焦点距離による画角の変化

例えば、上はいて座のM8とM20を捉えた写真ですが、左側では2つの散光星雲が余裕をもって収まるとともに、周辺の星団なども見えてバランスが良い感じがします。一方、焦点距離の長い右側では星雲が端の方に偏っていて、少々窮屈な印象が否めません。

焦点距離による画角の変化

一方、こちらは視直径の小さなこと座の惑星状星雲M57ですが、焦点距離の短い左側はいかにも迫力不足で、何が写っているのかがかろうじてわかる程度。この場合は右のように焦点距離の長い望遠鏡でクローズアップしたいところです。

なお、焦点距離が1000mmを超えるような望遠鏡での撮影は、拡大率が大きい分シビアな精度が要求されるので、きっちり撮ろうとすると技術的にも資金的にも難易度がかなり高くなります。ここで述べる赤道儀任せの撮り方では、長くても500mm程度に抑えておいた方が成功率が高くなります。

もちろん、対象の大きさによっては望遠鏡ではなく、普通の望遠レンズを用いても構いません。

カメラ

これもまずは手持ちの機材でやってみるといい……のですが、中古の安物で構わないのでできればキヤノンの一眼レフを使いたいところです。というのも、マウント内径が大きくケラレにくいということや歴史的経緯から、天体写真の世界ではキヤノンのシェアが高く、それを支援するハードやソフト、サービスも充実しているためです。次点はニコン。これら以外のカメラでも撮影は可能ですが、使い勝手などが悪い可能性はあります。

なお、こと天体写真に関して言えば、一般に言われる高級機はあまり必要ありません。というのも、高速連写だの高精度AFだのが必要ないためで、キヤノンなら入門機のKissシリーズで十分。フォーマットについてはAPSか35mmフルサイズかで迷うところですが、フルサイズだと周辺減光などの処理が難しくなり、望遠鏡の要求性能も上がってしまいますので、無理をすることはないと思います。

また、一般にカメラの撮像素子の前面には赤外線をカットするフィルター(IRカットフィルター)が取り付けられていますが、このフィルターは散光星雲が発する赤い光(Hα線)も大幅にカットしてしまうので、そのままでは散光星雲の写りが大変悪くなってしまいます(全く写らないわけではない)。そこで、散光星雲を狙う目的でIRカットフィルターを除去する改造がしばしば行われます。カラーバランスが崩れるため、事実上天体撮影専用になってしまいますが、効果は絶大。いくつかの望遠鏡専門店が改造カメラの販売や既存のカメラの改造を受け付けていますので、これを利用するのが一般的です。ただ、機種によっては改造を受け付けていない場合もあるので、既存のカメラを改造しようという場合は要注意です(キヤノンのカメラを勧める理由その2)。

そのほか、撮像素子を冷却して熱ノイズの低減を狙った「冷却CCD」や「冷却改造一眼レフ」などがありますが、ここでは割愛します。

インターバルタイマー機構付きレリーズ

タイマーリモートスイッチ

天体撮影はどれもそうですが、特に長時間露出が必要とされる星雲・星団の撮影では振動は厳禁なので、レリーズを使ってシャッターを切ります。普通のレリーズを使ってもいいのですが、露出時間の正確なコントロールが難しい上に面倒なので、撮影枚数や露出時間を設定できるタイプのレリーズがあると大変便利。メーカー純正品が用意されている場合もありますが大抵高価なので、たとえばエツミの「タイマーリモートスイッチ」のようなものを使えば安くあげられます。

画像処理ソフト

撮影した画像を処理して見栄えよくします。特に光害地での撮影の場合、光害に埋もれた天体の淡い光を抽出しなくてはなりませんので極めて重要。Photoshopなどの一般的なフォトレタッチソフトも使えますが、写真としては特殊なジャンルゆえ、これだけで処理するのはなかなか大変です。「ステライメージ」のような天体写真処理専用のソフトが1本あると便利です。

できれば揃えておきたい機材

光害カットフィルター

光害カットフィルター

別のところで書きましたが、光害カットフィルターは日本ではもはや必需品です。撮影に望遠鏡を使う場合、レンズの前にフィルターを置くのは不可能な場合が多いので、たいていは光路の途中に置くことになります。取り付け方に工夫が必要な場合もありますが、たいていは何らかの解決策が存在します。なおキヤノンのカメラの場合は、マウントの内側に装着できるタイプのフィルターが売られているので、これを利用すれば光学系を変えても共通で使えるので便利です(キヤノンのカメラを勧める理由その3)。

ピント微動装置

ピント微動装置

望遠鏡のピントノブの部分に取り付ける、一種の減速ギアです。望遠鏡の機種によっては最初からついている場合もあります。

天体撮影のピント合わせというのは大変シビアで、最後にピントを追い込むあたりになると、ピントノブを動かしたか動かしてないか分からないくらいの微妙なさじ加減が必要になってきます。しかし、ここに微動装置を取り付けておくと、ピントノブの動きが1/7~1/10程度に減速されるので、ピント合わせが圧倒的に楽になります。それなりにいい値段がしますが、快適さがまるで違うので余裕があれば手に入れておきたいところです。

ノートPC

カメラが、パソコンと接続して撮影する「リモート撮影」(「テザー撮影」ともいう)に対応しているのであれば、ノートPCがあるとピント合わせや撮影が格段に楽になります。ピント合わせについては、ライブビュー画像をパソコンの大きな画面で確認できるので快適ですし、「ピントエイド」のようなピント合わせのための補助ソフトも利用できます。撮影についても、露出時間や撮影枚数などをキーボードで設定可能。レリーズ側のボタンなどでプチプチ設定するよりは楽なはずです。さらに「ステラナビゲータ」のようなプラネタリウムソフトで写真の構図の確認、望遠鏡架台のコントロールなども可能ですし、いずれガイド撮影をする際にも大活躍します。荷物が増えることになりますが、手元にあると何かと便利です。

こうした目的に使うPCは、それほど高性能である必要はないので中古で構いませんが、状態によってはバッテリーがへたっている場合があるのでその点は要注意です。もしバッテリーがへたっている場合は交換するか、DC/ACコンバータを挟んで望遠鏡架台を動かしているバッテリーなどから電気を引っ張ってくることになります。また、持ち運びや連続稼働時間を考えるといわゆるモバイルPCの範疇に入るものが利用しやすいのですが、一方でUSB端子の数や配置が問題になりがちなので、そこはよく確認してください。

超お手軽星雲・星団撮影法

上で書いた最低限の装備でも、明るい天体ならとりあえず撮影できます。長時間露出を行う場合、いくら赤道儀を使っていても設置精度や機械精度の問題で多少は星が流れて写ってしまうのが普通ですが、望遠鏡の焦点距離や露出時間を欲張らなければ、赤道儀任せでも結構なんとかなるものです。第一、光害が激しいところだとそもそもそれほど長時間の露出はできませんし……。加えて、ブログやSNSに載せるだけなら、どのみち写真を縮小してしまうことが多いので多少流れても分かりゃしません。細かいことを言い出したらきりがありませんが、まずはやってみることです。

実際に、上で書いたのとほとんど同じ装備を使って撮影したときの手順を一例として示します。

1. 望遠鏡の設置

説明書の手順に従ってコンクリートなどのしっかりした地面に赤道儀を設置し、望遠鏡を載せてカメラを装着します。このとき、赤道儀の極軸は極軸望遠鏡などを使ってしっかり合わせてください。あまりにいい加減な設置の仕方だと、短時間露出と言えどさすがに流れます。

なお、自動導入機能付きの赤道儀の場合、設定によっては極軸が多少ずれていても追尾してくれますが、この機能を使うかどうかの判断は難しいところです。これを使うと、原理的には画面中央を中心に画面がわずかに回転していってしまうのですが、短い露出だと目立たず結果的に歩留まりが上がる場合があります。このあたりは設置精度や望遠鏡の焦点距離にもよるので「やってみないと分からない」というのが正直なところです。

2. ピント合わせ

望遠鏡とカメラをセットしたら、明るめの星を導入し、ライブビュー画面でピントを合わせます。拡大表示しながら、ピントノブをゆっくり回して慎重に星像が最小になる点を探ります。ここが甘いと見栄えに大きく影響するので、時間をかけてでもしっかり作業しましょう。副鏡を支えるスパイダーがある反射望遠鏡の場合、スパイダーが作る十字の回折像が最も鋭くなったところがピント位置です。パソコンがあれば、「ピントエイド」などの支援ソフトの類を利用するのも手です。

3. 目的天体の導入

自動導入装置や目盛環を使って目的の天体を導入します。とはいえ、ライブビュー画面では見えないことがほとんどなので、試し撮りをして構図を確認します。一時的にISO6400といった高感度に設定して短時間露出し、撮れた画像を参考に望遠鏡の向きを微調整します。構図調整後は感度設定を戻すのを忘れずに。

4. 本番撮影

インターバルタイマー機構付きレリーズに露出時間と撮影枚数をセットし、撮影します。撮影枚数はなるべく多くしてください。画像処理の段階で、複数枚の画像を重ねあわせてノイズを軽減する「コンポジット」という手法を用いるため、ということもありますし、全部のコマが流れることなくきれいに写るわけでもないからです。

ただし、むやみやたらに枚数を増やすのも考え物です。コンポジット処理では「重ねた画像の枚数の平方根分の1」だけS/N比が向上します。つまり、4枚ならS/N比は2倍、16枚なら4倍になるのですが、ここからさらにS/N比を2倍にしようとすると64枚も必要になってしまいます。この枚数になるとコンポジット処理も大変ですし、撮影時間についても1コマ2分としても2時間以上かかる計算で、なかなか割に合いません。しかも、時間をかけると星の高度変化や時間経過に伴って背景の空のカブリ具合が変わってくるので、後処理も難しくなってきます。街なかで撮影する場合、強力な画像処理を行うのでS/N比はなるべく上げておきたいのが本音ですが、まずは8~16枚を基本線としてそれに+αするくらいの枚数から始めるのがいいのではないかと思います。慣れたらさらに枚数を増やしてみるといいでしょう。

カメラの設定についてですが、まず保存形式はJPEGではなくRAWにしておきます。JPEGだと原理上データの欠落が発生するので、撮影後の画像処理に耐えられないからです。また、長時間露出時に「シャッターを閉じて同条件で撮影を行い、ノイズ成分を差し引く」という機能を持ったカメラがありますが、可能であればこの機能は切ってください。ノイズ成分を差し引く作業はあとからでもできるので、撮影時間がもったいないです。

感度については、高ければ短い露出時間で暗いものまで写りますが、一方でノイズが増えたり、ディテールがつぶれたりといったデメリットも目立ってきます。使っているカメラによって実用に耐える感度は大きく異なりますが、最近のカメラであればISO1600くらいまでなら上げても大丈夫でしょう。

もっとも、画像処理を前提にするのであれば、こちらで触れるように低感度で撮ったほうが有利な場合もあるので、ある程度の試行錯誤が必要かと思います。

5. 撮影終了→ダークフレーム撮影

撮影が終了したら、カメラを機材から外してキャップをします。そして、天体を撮影したときとまったく同じ条件で撮影を行います。キャップをしているので撮った画像は一見真っ黒ですが、ここにはカメラ由来のノイズ成分が写っています。この写真を「ダークフレーム」といい、あとから写真のノイズ成分を除去するのに使用します。ダークフレームもコンポジットを行うので、撮影枚数は天体を撮った枚数と同じかそれ以上にします。

なお、ノイズの出方はカメラの撮像素子の温度によって変わるので、できればダークフレームは撮影直後に撮影してしまった方がいいです。先にカメラを外してダークフレームを撮影し始め、その間に撤収作業を行うと効率的です。

6. 画像処理

撮影した画像をPCに移動し、画像処理を行います。基本的な流れとしては、

  1. ダークフレームをコンポジット
  2. コンポジット後のダークフレームを使い、天体が写っているコマ(ライトフレーム)からノイズ成分を引く
  3. ライトフレームを現像
  4. 流れていないコマを選別し、コンポジット
  5. 「レベル補正」や「トーンカーブ」の編集により、背景を暗く、かつ星雲を浮き立たせる
  6. シャープネスを上げたり、カラーバランスを調整したりして画像を整えたのち、保存

といった具合になります。詳しくはこちらをご覧ください。

ノータッチガイドによるM42

ここに示したのはこの方法で撮影したオリオン大星雲(M42)ですが、こうした明るい天体なら、こんな簡単な撮り方でもなんとかなるものです。

ちなみに、このような赤道儀任せの撮影方法を俗に「ノータッチガイド撮影」と呼んだりします。そもそもガイド自体していないので、本来的な意味からいえばノータッチもなにもないのですが、おそらくは赤道儀の微動ノブを手で操作して追尾する「手動ガイド」に対しての「ノータッチ」という言い方だったのだろうと思います。

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