光害になんて負けたりしない!東京都心でもできる天体観測

アイソン彗星(C/2012 S1)

撮影日時 2013年11月23日5時8分
使用カメラ ペンタックス K-5IIs+D FA MACRO 100mmF2.8
感度・露出時間 F4, ISO1600 露出10秒
備考 アストロトレーサーによる簡易追尾。一部をトリミング。

アイソン彗星(C/2012 S1)は、2012年9月21日にキスロヴォツク天文台にてヴィタリー・ネフスキーとアルチョム・ノヴィチョノクによって発見された新彗星です。アイソン(ISON)という名前は、発見者らが所属しているプロジェクト「国際科学光学ネットワーク」(International Scientific Optical Network, ISON)から取られたものです。彗星は発見当時、木星軌道付近で見つかったにもかかわらず比較的明るかったこと、また太陽に極端に近づく(近日点距離187万km)軌道を描くことから、一時は最大でマイナス13等にもなるモンスター彗星になるのではないかと期待されました。新聞やTVが「空前の大彗星」と大騒ぎしていたり、飛行機で空から観測するツアーまで企画されたりしたのは記憶に新しいところです。

しかし、彗星は2013年に入ってから増光のペースがすっかり鈍ってしまい、太陽接近前の見頃とされる11月ごろでも3等台程度の明るさにしかなりませんでした。2013年3月に見頃となったパンスターズ彗星(C/2011 L4)もそうですが、これらは太陽系外縁にある彗星の巣「オールトの雲」から初めて太陽系内に侵入してきた彗星です。実はこのタイプの彗星は予想ほど明るくならないことが多いのです。

その原因としては、低温で揮発する物質が豊富に残っているため、太陽から遠く離れたところでも比較的活発に活動し明るく見えること、また、太陽の熱に炙られているうちに彗星核の表面にダストでできた「殻」のようなもの(ダストシェル)ができ、成分の揮発が妨げられること、といったあたりが考えられています。過去にもコホーテク彗星(C/1973 E1)やオースチン彗星(C/1989 X1)など、大騒ぎされたのに明るくならなかったのは、もっぱらこのパターンです。

加えてアイソン彗星の場合、彗星核も予想よりはるかに小さかったらしく、太陽最接近時に熱と潮汐力に耐えられずに崩壊するというオマケつき。はからずもこれが「遺影」となってしまいました。

それでも、救いは冬場で空気の透明度が良かったことで、個人的には春先のパンスターズ彗星よりは見やすかった印象です。上の写真は多摩川の河川敷から撮影したもの。この時の明るさは3等前後ですが、高度が3度以下しかないのにこれだけ写っているのですから。

ただ、こちらも一般の人が見てすぐ分かるかというと、まったくそんなことはなく。自分が撮影していた場所の近くで観察・撮影を試みていた人が何人かいましたが、みなうまくいかなかったようでした。

撮影日時 同上
使用カメラ ペンタックス K-5IIs+DA55-300mmF4-5.8ED
感度・露出時間 300mm, F5.8, ISO1600 露出10秒×6コマ
備考 アストロトレーサーによる簡易追尾。6コマをコンポジット後、ステライメージ7により強調処理。一部をトリミング。

こちらの写真は、6コマ分をコンポジットしたうえで強調処理したものですが、意外としっかりダストの尾も見えて、いかにも彗星らしい姿です。よく見ると尾の中の濃淡もわずかに見て取れます。しかし、写真で強調処理をかけた結果こう見えるのであって、眼視ではかろうじて光のシミが見える程度。天文ファン的には十分立派な肉眼彗星ですが、一般の人にとっては肩透かしもいいところだったのではないでしょうか?パンスターズ彗星とのダブルパンチで、トラウマにならないといいのですが……。

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